「僕は、そんな武士の世界が嫌いなんです」
だから、そんな世界に帰るつもりはないと、瞬は暗に断言していた。

瞬の行動には理解を示しているようだったが、それでも土方が渋い顔になる。
「それは、持てる者の考え方だ。武士に生まれついた者の。俺たちは皆、元は農民だ。農民だというだけで、虐げられてきた。力を持つことも許されなかった」
「それも、持てる者の理論です。僕は、あなたたちが捨てようとしている自由こそが欲しかった……!」

持てる者と持たざる者の考え方は、相容れるものではないようだった。
価値観が根本的に違っているのだ。
それは仕方がない。
それでも、互いに互いを理解し合うことはできる。
その場にいる誰もが、その奇妙な事実の不思議を思っていた。
「そういうものなのかもしれないな。人は、自分に与えられなかったものに憧れる」

「皆さん、お優しいのに……。こんなにお優しいのに、人切り集団だの、壬生の狼だのと言われて、それで平気なの……」
瞬の言葉が、自分たちを責めているのではないことは、近藤たちにもわかっていた。

「我々は──」
近藤が、少しく辛そうな目をして、おもむろに口を開く。
「我々はもう、武士の世界に組み込まれているのかもしれない。もはや後戻りはできんよ」

それが、彼等の望んだ武士の世界というものだった。







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