「で、どうする? 我々としては、会津藩との良好な関係に波風を立てたくないので、君たちには故郷に帰ってもらいたいところではあるんだが……。君の兄君は、氷河を再度、藩に召し抱えてもいいと言っているそうだ。君さえ帰ってきてくれるのなら」

「隊を出る者は、切腹でしょう」
新撰組局中法度に、『局を脱するを許さず』がある。
背いた者は、当然、切腹だった。
法度を決めた当の本人の土方に、瞬は辛い笑みを向けた。

「この場合は、局長命令だ。腹を切ってから出ていけとは言わん」
近藤が、そう言い、
「梅と桃と桜が同時に咲く故郷……懐かしいんだろう?」
沖田が、瞬を見詰める。

「僕は、故郷より、氷河を選んだんです……」
彼等のその言葉が、厄介者を追い出すための言葉ではなく、彼等の優しさだということが、瞬は辛かった。

日に日に討幕派の力が増してきている。
新撰組の行く末を、彼等は既に予感しているのかもしれなかった。

「守護職殿がおっしゃるには、君の兄君は氷河との帰郷を許しているそうだ。武士の面目の何のと言ってみても、結局、兄君は、君を大事に思っているんだ。武士の大儀や武家の体面より、結局は人、だ」
「僕たちも──何か大きなことをしでかしてやろうって夢を追って、京まで来たけど、それができたのは、近藤さんや歳さんが一緒だったからだよ。多分、夢も大事だけど──僕たちは、そのために、ここにいるけど、同じ夢を見てくれる人の方が、夢そのものよりも、僕は大事だ」
「人にいちばん必要なのは、人だということだ。君を必要としている人が、君の故郷にはいる。帰れるものなら、帰った方がいい」

「…………」
束の間でも仲間だった者たちのために、それぞれに言葉を紡いでくれる三人を見詰めていた瞬は、最後に、自分の隣りにいる氷河の瞳を見やり、そして、小さく頷いた。

「──帰ります。氷河を連れていってもいいですか」
「最近は、人切りの悪名の方があがって、女も寄ってこなくなったし、氷河はもう用済みだ」

その時に、瞬は初めて、鬼の副長の笑顔を見た。







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