「僕たちは、武士の世界──幕府の存続を望んではいません。僕たちが望むのは、格式ばった封建制度なんかじゃなく、武士も農民もない自由で平等な世の中です」 壬生寺の門を出る時、瞬は、見送りに来てくれた沖田に、多分に不安げに告げた。 三月の早朝。 事情を知らされていない他の隊士たちは、まだ眠りの中にいるのだろう。 近藤と土方は見送りには出ないと言っていた。 「兄は機を見るに敏な人です。今は会津と足並みを揃えていますが、民の犠牲を最小限に抑えるために、もしかしたら、三春は──」 「三春は──何?」 「あ、いいえ……」 その先の言葉を、瞬は口にはしなかった。 ただ、漠然とした未来に思いを馳せ、この優しい人たちの敵にはなりたくないと、瞬はそう思ったのである。 薩長連合軍の足音は、すぐそこにまで近付きつつあった。 |