俺は、ラウンジから出てきた紫龍を捕まえて、奴を問い質した。
「俺に言えない秘密とは何だ」

「氷河……盗み聞きをしていたのか」
紫龍が、僅かに顔を歪め、咎めるように言う。
俺は、それには何も答えなかった。
盗み聞きなどしていないと答えれば、それは嘘になる。

「瞬に聞け。俺は言える立場にはない。瞬は──言わないだろうが、な」
紫龍はそれだけを言い残し、さっさとどこぞに行ってしまった。

俺は──それでなくても、最近、妙に苛立っていた俺は──紫龍のその態度が実に気に入らなかった。
自分は瞬の考えを心得ている──と言わんばかりの、奴の態度が。
紫龍と瞬の二人だけの秘密──それも、俺に関する──なんてものは、許しておけない。

俺は、不本意ながら、瞬と対峙する覚悟を決め、ラウンジに足を踏み入れた。
そして、今度は、ラウンジのソファでくつろいでいた瞬を問い質す。
「俺に言えない俺に関する秘密とは何だ」

「……紫龍が何か言ったの?」
瞬は、どこか身構えたような態度で、逆に俺に尋ね返してきた。

「言わないから、おまえのところに聞きにきたんじゃないか」
俺の答えを聞いて、瞬はあからさまに安堵したような顔になった。
それから、表情をきつくして、
「別に」
と、素っ気なく言う。

俺は当然、食い下がった。
「おい、瞬」
「氷河に関する秘密なんて何にもありませんっ!」
しかし、返ってくるのは、刺々しい口調の白々しい答えのみ。

瞬が仲間に丁寧語を使う時は、腹に一物がある時か緊張している時、あるいは、怒っている時だ。
今は──もしかすると、その全部なのかもしれない。

それにしても、瞬はどうしてこんなにヒステリーばかり起こしているんだ。
瞬は──俺の知っている瞬は──絶対にこんな奴じゃなかった。






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