瞬と紫龍が俺に教えようとしない、俺に関する秘密。 瞬と紫龍のどちらに当たれば、より容易にその秘密に辿り着けるのか。 深く考えるまでもなく、その答えは『瞬ではない方』だった。 誤解を恐れずに言ってしまうなら──俺は、瞬が苦手だ。 多分、それは、瞬が“涙”という最終兵器を持っているからなんだろうが、そして、瞬と紫龍を比べれば、色々な意味で瞬の方が強いと感じるからなんだろうが、できるなら俺は、瞬と正面切って対決したくない。 だから、俺は、もう一度、龍星座の聖闘士に当たることにした。 瞬に口止めされているからには、奴もそう簡単に口を割ることはないだろうが、その時はその時だ。 万一“その時”に直面することになった場合に都合よく、奴は城戸邸の庭に出ていた。 「おい、紫龍。もう一度だけ言う。瞬が俺に教えるなと言っていた俺に関する秘密とは何だ」 「言えん」 「そうか。では、実力行使をさせてもらう」 やはり、“その時”になったかと考えて、俺が自分が口にした言葉を行動に移そうとした時。 紫龍の奴は、まるで緊張感のない口調で、俺に言いやがった。 「以前からずっと思っていたんだが……。おまえ、そこで踊り出しさえしなければ、変人の何のと言われずに済むんじゃないか?」 そーゆーことはアニメスタッフに言え! 違った、俺にこんなふうな技を教え込んだカミュに言え! ──と、主張したいところだが、俺の立場上、そうもいかない。 どっちにしても、紫龍のそのセリフは、俺から、“踊る”気力を奪いとった。 俺の中から攻撃的な小宇宙が急激に失われていくのは、まがりなりにも聖闘士である紫龍には、容易に感じとれたらしい。 紫龍は、そんな俺を見やって、今度はもう少しマトモなセリフを吐いた。 「盗み聞いていたのならわかるだろう。瞬は、あの秘密を他人がおまえに教えないことが、おまえのためになると思っているんだ。瞬は、おまえ自身に気付いてほしいと思っている。俺に教えられるわけがない」 「…………」 こいつが、俺は瞬の気持ちを理解しているんだという顔で、そんなことを言うのが気に入らない。 俺は、何よりも、それが気に入らなかった。 「とにかく。俺は、おまえのその変な技より瞬の方が恐いから、瞬に口止めされていることに関しては沈黙を守るぞ」 「…………」 この俺より、防御型の瞬の方が恐いというのは、侮辱だ。 他の誰でもない俺自身が、瞬よりは紫龍の方が御しやすいと踏んで、紫龍を秘密解明のターゲットに選んだことを棚にあげ、俺は奴の賢明さに憤慨した。 |