自分でも阿呆らしいことをしていると思ったが、俺は、瞬から俺に関する秘密を聞き出すべく、ラウンジに引き返した。
そして、そこで再び、俺は盗み聞きにいそしむことになった。
今日は、本当に何て日だ!

今度の俺の盗み聞きの相手は、瞬と、そして、我等がアテナだった。
アテナは、ラウンジのセンターテーブルに数枚の書類を広げ、それを挟んで瞬と話をしていた。

「これは、どういうことなのかしら」
「どうかなさったんですか? これ……健康診断書?」
「ええ、そう。先週、みんなに健康診断を受けてもらったでしょ。その結果が思わしくないのよ」
「結果が思わしくない……?」
「氷河の検査結果がね……」
俺の検査結果がどうしたって?

まさか、声に出さない俺の疑念が通じたわけでもないだろうが、沙織さんは、いったんはテーブルに置いた検査結果書類を手に取って、困惑しきった口調で、瞬に“思わしくない結果”の内容を説明し始めた。

「氷河が……血圧は異様に高いし、心電図は普通の人間のそれじゃなく乱れきってるし、聴覚も、真面目に検査を受けたのかって言いたいくらい滅茶苦茶なの」
「え……?」

「健康診断の後の運動能力テストも、おかしいのよ。握力、長座体前屈、反復横跳び、持久走、往復持久走、50mダッシュ、立ち幅跳びにハンドボール投げ、どれもこれも60歳の老人並みの数値しか出せてないの。仮にも聖闘士の握力が、20kgなんてありえないわ! 20kgなんて、60歳の、それも女性の握力よ!」
「あ、それは……」

最初は心配そうに沈んでいたアテナの口調が、後になるにつれて、激したものに変わっていく。
対して、瞬のそれは、困惑したような口調から、どこか溜め息めいたものに変わっていった。
「それ、氷河には言わないでおいてください」
「心当たりがあるの? 氷河ったら、何か悪い病気でも拾ってきたのかしら。精密検査を受けさせた方がいいと思う?」

「その必要はありません。氷河の病気は──馬鹿なだけだから」
「?」
決して馬鹿にしたようにではなく・・・・・・・・・・・・、むしろ意気消沈気味に、瞬はそう言った。
アテナが、瞬の言葉にどんなリアクションを示したのかはわからない。

しかし、瞬の言いたい放題は、いったい何事だ?
瞬に、そんなに俺をこきおろしまくる権利があるか?
いや、絶対にない。

だが、まあ、それはそれとしてだ。
そんな馬鹿げた検査結果が、いったいどこから出てきたんだ?
俺の握力は200kgはあるはずだぞ。
握力計を振りきったんで、計測員が適当なことを記録したんじゃないのか?

いや、そもそも、俺はいつ運動能力テストなんてものを受けたんだ?
俺には、そんなものを受けた記憶が全くない。
健康診断は受けたような気もするが、その記憶もはっきりしない。

「…………」
──確かに、俺は、どこかおかしいようだった。






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