瞬に口止めされている限り、紫龍は口を割らないだろう。
やはり俺は、瞬と対決するしかないようだった。
“本気”がどこまでレベルアップするのかわからない相手に勝てるかどうか、確たる自信はなかったが、しかし、やるしかない。
俺は、アテナが首をかしげながらラウンジを出ていくのを見送ってから、再度、その部屋の扉を開いた。

瞬は、ラウンジの長椅子に腰をおろし、沙織さんが残していったらしい健康診断書に、どういうわけか恥ずかしそうに・・・・・・・見入っていた。
俺の入室に気付いて、その表情を堅くする。
そして、瞬は、手にしていたものを背後に隠した。

俺は、そんな、ありえない数値の記載されている紙なんかには興味がない。
書類の代わりに、俺は、瞬の手首を、握力が20kgしかないという手で掴みあげた。

瞬が、痛そうに顔を歪める。
やはり、俺の握力は20kg程度の可愛いものではないらしい。
俺の握力同様、まるで可愛げのない瞬が、俺を睨みつけてくる。
あの、子供みたいに大きな瞳で。
瞬と目が合った瞬間、なぜか俺の心臓は撥ねあがった。

「急に何するんですかっ!」
「俺に言えない秘密とやらを白状しろ」
「い、や、で、す! どうして僕が!」
瞬はどこまでも可愛くない態度を貫き通すつもりらしい。
反抗的な口調で、そう返され、俺の頭に血がのぼる。

「言え」
俺は低い声で俺の要求を繰り返し、瞬の肩を、瞬が隠そうとしていた書類の上に押しつけた。
長椅子に押し倒された格好になった瞬が、きつい目をして、俺を睨みつける。

だが、瞬は、すぐに俺から顔を背けた。
唇を堅く引き結んで横を向いてしまった瞬のうなじが──どう言えばいいんだ?
つまり、それは、まるで男のそれに見えなかった。
細くて白くて頼りない。
握力20kgの老人にも簡単にへし折ることができるんじゃないかと思えるほどに。
その白く細いうなじに、わずかばかりの後れ毛がまとわりついている。
俺は、ごくりと息を飲んだ。

瞬は、黙秘権行使の姿勢を明らかにすれば、俺が秘密を聞き出すことを諦めると思っていたんだろう。
平生の俺なら、そうしていたかもしれない。
俺だって、瞬のネビュラストームで大気圏外にまで吹き飛ばされるのは御免被りたい。
だが、俺はそうしなかった。
長椅子に押しつけた瞬の手首を解放せず、俺は無言で、瞬の横顔に見入っていた。

黙り込み、いつまで経っても自分を解放しようともしない俺を、瞬は不審に思ったらしい。
横に背けていた顔をゆっくりと、俺の様子を窺うように廻らせて、俺の目を覗き込んでくる。

「なに?」
俺に不審尋問をしかけた瞬の唇は、次の瞬間には、俺の唇で、声を発することのできない状態にさせられていた。






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