いくら何でもやりすぎた──と俺が思ったのは──思うことができるようになったのは、一度や二度ではなく、瞬の中に俺を吐き出してからだった。
瞬は、その頃にはもう、死んだ人間のようにぐったりしていて、まるで壊れた人形みたいに、空ろな瞳を見開いているばかりだった。

そんな瞬を見ても、俺は、自分が何をしでかしてしまったのか、その意味を正しく理解できずにいた。
俺はただ、瞬が隠そうとしている俺に関する秘密を知りたかっただけだった。
瞬が反抗的だから、ちょっとお仕置きをしてやろうと思っただけだったんだ。

「瞬……」
かろうじて袖だけは通っていた瞬のシャツブラウスで瞬の胸を覆いながら、俺は瞬の名を呼んだ。

かなりの間を置いてから、瞬からの反応があった。
「……あっち行って」
「瞬」
「あっち行ってってば! 氷河の馬鹿! 最低!」

さっきまで、俺の腹の下で弱々しげに泣いていたくせに、口だけは相変わらず気丈を保っている。
俺は瞬の態度にむっとなり、一瞬、この生意気な子供をまた犯してやろうかと、非道なことを考えた。
そうしたいのをこらえ、無理に抑えた声で言う。
「おまえが隠し事をするのが悪い。しかも、俺のことで──」

「僕のせいなの !? 」
ボタンがほとんど弾け飛んだブラウスの前を右の手で閉じ合わせながら、長椅子の上に上体を起こした瞬が、俺をなじってくる。
「これは、僕のせいなのっ !? 氷河、自分のしたことがわかってるっ !? 自分がわかってるのっ !? 」

気丈な言葉とは裏腹に、痛々しいとしか言いようのない瞬のその様子を見せられて、さすがに俺の憤りも霧散する。
俺自身はほとんど着衣のままだったからなおさら、自分のしたことが暴行という正真正銘の犯罪なのだということを、俺は実感させられた。

なのに、俺は、素直に瞬に謝罪もしやがらない。
「……わかっている。くそ生意気なガキをこらしめてやろうとして、ちょっとやりすぎただけだ」
「ちょっと !? 」
瞬の怒りは当然だ。

「氷河って、ほんとに最低……」
瞬が悔しそうに唇を噛みしめる訳もわかる。

だが、俺はいい加減、腹に据えかねていたんだ。
瞬の口から発せられる馬鹿の最低のという、俺への罵声が。

「最低の馬鹿のと言ってくれるが、おまえは俺のことをどれだけ知っているというんだ! 何も知らないくせに、他人のことを貶めるのは馬鹿な行為じゃないというのか」

何を言ってるんだ、俺は。
こんな、馬鹿で最低なことをしておいて。
俺は瞬をレイプした犯罪者だぞ。
瞬を責められる立場じゃない。

俺は──少し前までは、瞬をいい仲間だと思い、瞬が俺の仲間として存在することに感謝さえしていたんだ。
瞬に素っ気ない態度を示されるたびに苛立ちも覚えていたが、それは理屈のない感情的な──いや、感情ですらなく気分的なものだと思っていた。
理屈では──瞬はいい奴なのだとわかっていた。
瞬はいつも優しくて、気が利いて、思い遣りがって──決して、心底から他人に悪感情を抱くことのできない、善良な──いい奴なんだ。

なのに。
なのに、どうして俺は、こんな──瞬を責めるような言葉を吐いてしまえるんだろう。

痛々しいとしか言いようのない様子の瞬が、俺に食ってかかる。
「じゃあ、氷河は──氷河は、自分自身のことをどれだけ知ってるっていうの!」
「俺自身のこと?」
「自分のことも知らないくせに、こんな──こんなことして……!」
「…………」

そうだ。
どうして、俺はこんなことをしてしまったんだろう。
瞬の言う通りに──確かに俺は自分自身がわからなかった。






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