結局今日も雨は降らず、夜に入ると空では星が瞬き始めた。
庭の紫陽花は、ますます花を開かせる時を迷っているに違いない。

頭を冷やすのに半日かかった。
夜になってから、俺は瞬の部屋に赴いた。

部屋の中に入れてもらえないんじゃないかという懸念もあったが、瞬は存外にすんなりと──と言うより、追い返す気力も湧いてこないというような様子で、暴行犯を室内に招じ入れてくれた。
泣きはらした目をしている。
俺は、良心が咎めた。


瞬は──もしかしたら瞬も──数日前からずっと思いきって咲くことができずにいる紫陽花の花を気にしていたのかもしれない。
バルコニーに続くガラス製のスライドドアの横で、それまで瞬が腰掛けていたらしい籐椅子が揺れていた。

瞬は、なぜか、もう、俺を責める言葉を口にしなかった。
籐椅子に腰をおろした瞬は、罵倒の代わりに、低い声で呟くように言った。
「人は……自分のことを理解してもらいたがる生き物だよね。でも、人は、他人に理解してもらいたい自分のことを、自分ではどれだけ理解してるんだろう?」

「?」
瞬は、急に何を言い出したんだ?
瞬の言ったことの意味を汲み取れず、当然答えも返せないでいる俺に、瞬は言葉を続けた。

「多分、理解していない人がほとんどだよ。誰も、自分のことなんてわかってない。なのに、それを他人に求める。人間って我儘だ」
「瞬……?」
「氷河は氷河自身のことをわかっていない。そして、多分、僕も僕自身のことをわかっていないんだ……」

瞬は何を言っているんだろう。
何が言いたいんだろう。
もっとわかりやすい言葉を──たとえば非難や罵声を──浴びせかけてくれたなら、俺はすぐにでもこの場に土下座して、瞬に許しを乞うこともできるのに。






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