瞬が言いたいこと。
言わんとしていること。
それは、間もなくわかった。

「僕が紫龍に内緒にしてほしいって頼んだ氷河の秘密はね」
俺に関する秘密と共に。

「氷河が僕を好きでいるってことだよ」
「なに?」
その時、俺は、おそらく、かなり間の抜けた顔をしていたに違いない。
俺が? 瞬を?
俺が瞬を好きだっていうのか──?

「知らなかったでしょう?」
そう言って俺の顔を見あげた瞬が、切なそうな目をして微笑む。

その通りだ。
俺は知らなかった。
寝耳に水で、初耳だ。
そう……だったんだろうか。
だから、俺は、瞬に邪険にされることにあんなに苛立っていたんだろうか。

だが、それが事実なのなら、俺の暴走行為にも合点がいく。
俺は、そっちの趣味は全くない。
瞬の態度に苛ついていたにしても、好きでもない男にあんな真似をするような悪趣味は持っていない。

「僕は、氷河に……誰かに教えられるんじゃなくて氷河自身に、そのことに気付いてほしかったんだ。僕は氷河が──氷河が好きだったから」
呟くようにそう言って、瞬がその瞳から涙の雫を頬に散らす。

「ただ、それだけだったのに……」
ついさっきまで、俺の目にくそ生意気なガキに映っていた瞬は、今はひどく可愛い健気な小動物に見えた。

俺は、そして、思い出した。
健康診断のあった日。

グラードの医療センターで、俺は瞬に数分遅れて受付を済ませ、更衣室に向かった。
そこで検査着に着替えている瞬の白い背中を見て、上の空になった俺は、握力検査どころじゃなくなったんだ。
運動能力テストなんて、まともに受けられるわけがない。
瞬の白い肩やら腕やら横顔やらがちらついて、俺はその幻影を振り払うのに必死だった。

心配した瞬に気遣わしげに名を呼ばれ、俺は小学校のガキみたいに顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
その後の記憶はおぼろ、だ。






【next】