人はどれほど自分自身のことを知っているものなんだろう。

俺は、瞬のことはわかる。
乱暴されても、相手を傷付けるのを恐れて反撃しない。
気が強いくせに、すぐ泣く。
実現し得ない理想を決して捨てようとせず、頑固に人の善意を信じようとし、馬鹿な仲間が窮地に立たされれば、平気で自分の命を投げ出して助けようとしたりもする。

瞬はそういう奴だ。
俺が瞬を好きになっても、不思議じゃない。
むしろ、俺が瞬を好きでいるという事実に気付かずにいた俺の方がおかしかったんだ。

だが、俺は──瞬のことならよく知っている俺は──俺自身のことは知らない。
我ながら支離滅裂な男だと思うだけだ。
自分がとんでもない馬鹿者だったということも、たった今まで知らずにいた。

瞬は、俺自身よりも俺を知っていてくれるんだろうか?
その上で、俺を好きだと──俺を好きだと言ってくれているんだろうか?
だとしたら、瞬は、寛恕かんじょの人イエスや大慈大悲の仏陀よりも寛大で悪趣味な熾天使だ。






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