「変な奴だな。オオカミのくせに」
まるで小犬のように大人しいシュンを抱き寄せたヒョウガが、シュンの瞳を覗き込んで呟きます。
「おまえが人間だったらよかったのに。可愛い、小さな男の子だ。そうしたら、一緒に暮らせるのに」

「くぅん……」
ヒョウガの言葉は、シュンの胸に、とても辛く響きます。
シュンは少し項垂れるようにして、彼の胸に首を傾けました。

同じ姿をしていないと、生き物は、共に生きることはできないのでしょうか。
それは、夢見ることも許されない、不可能な幸福なのでしょうか。

シュンは、そうして、その時に初めて、自分が本当に望んでいたことが何だったのかに気付いたのです。
シュンは、本当は、彼に殺されたかったのではありませんでした。
シュンは、本当は、彼と一緒に生きたかったのです。

けれど、人間とオオカミは違う生き物。
おそらく、共に暮らすことのできない命を生きている存在なのでしょう。

自分自身の醜さよりも、更に辛い現実を思い知らされたシュンの瞳が、熱い涙の膜で覆われます。
涙でにじんだ瞳で見詰めると、ヒョウガは、シュンの目に、若々しく たくましく、そしてとても美しいオオカミに見えました。

それは、悲しい“おあいこ”。
シュンは、ゆっくりと、雪と涙で濡れた瞼を閉じました。






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