──シュンは死にませんでした。

翌朝、一晩安静にしていたおかげで、なんとか歩けるようになったヒョウガは、自分を救ってくれた小さな灰色のオオカミを見捨てたりはしなかったのです。
大地の裂け目から這い出たヒョウガは、死んだようにぐったりしているシュンを、彼の家に連れて帰りました。

まだ少し足に痛みは残っていましたが、痩せ細っていたシュンの身体はとても軽かったので、それは、ヒョウガにはさほど難しい仕事ではありませんでした。
自分に命をくれた健気なオオカミを、ヒョウガは大事に大事に抱きかかえて、彼の家の暖かい部屋の中に運び入れたのです。

そして、ヒョウガは、シュンのために、羊を一頭ほふりました。

シュンは、目の前に置かれた羊の肉に、最初は戸惑うことしかできませんでした。
ヒョウガに食べるように仕草で示されてから、シュンはやっと、恐る恐るその肉に歯を立てました。
なんだか全てが夢のように思えて、久し振りに食べる肉の味すら、シュンにはよくわからなかったのですけれど。

幾度も幾度もヒョウガの顔を見上げ、少しずつ少しずつ羊の肉を食べるオオカミの様子を見おろしながら、ヒョウガは言いました。
「人間も──俺も、おまえと同じように羊の肉を食って命を繋いでいる。おまえだけを責めるわけにはいかないだろう?」

シュンにそう告げるヒョウガの眼差しは、とても優しく温かでした。






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