もしかしたら、それは、泣いてばかりいたシュンを哀れんだ神様からの、ささやかな贈り物だったのかもしれません。
ヒョウガはおそらく、昨夜、冷たい雪に閉ざされたシベリアの森の中で、心が見える瞳を与えられたのです。

人間である自分とオオカミであるシュンが、同じものに見える瞳。
人間である自分の命とオオカミであるシュンの命が、同じ命に見える瞳。
美しく哀しい心を持った者の姿が、その心と同じように美しく見える瞳。
姿が違い、信じるものが違い、生きる術が違う者を、思い遣り、慈しみ、愛することができるようになる瞳を。


シュンは、ヒョウガのその瞳に見詰められているうちに、心臓がどきどきと高鳴り始めました。

だって。
ヒョウガの瞳に映るシュンの姿は、夢のように美しかったのです。
森の湖の湖面に映るあの姿とは別の生き物のように、その姿は美しく輝いていたのです。
ヒョウガは、今は、シュンの心だけを見ていましたから。

そして、ヒョウガの瞳の中に自分の美しい姿を見い出したシュンの、彼と共に生きていたいという思いは、いよいよ強く大きくなっていったのでした。






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