事情を把握し、理解し、その上で自分の気を取り直すのに、星矢は5分以上の時間を要した。
それらのことを全てし終えてから、目いっぱいの大声をあげる。
「こ……こっちはなー! 本気で心配してたんだぞっ!」

アテナの聖闘士の本業は、命を懸けた闘いである。
強大な敵を倒すためには、確然とした信頼、何ものにも揺るがない友情──要するに、チームワークが物を言う。
物を言うことを、アテナの聖闘士たちは、かつての闘いの場で学び、かつ実感してきた。
互いを信頼し合えないということは、共に闘えないということであり、それはアテナの聖闘士たちの敗北と死を意味するのだ。

だからこそ──これほど仲の悪い二人が同じ敵に立ち向かっていけるのかと、星矢は心を痛めていたというのに。
何のことはない、氷河と瞬は、友情の代わりに恋情を育むことに夢中になっていただけだったのだ。
星矢の不安と心配をよそに、いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃと。

「ご……ごめんなさい」
「氷河も黙ってないで、何とか言えよっ」
「──喧嘩をしないでヤると、今いちなんだ」
「そーゆーことじゃなくてっ!」

ぜいはあと肩で息をしている星矢を、紫龍が気の毒そうになだめ、慰める。
少なくとも、氷河と瞬の不仲が事実ではなかったことで、アテナの聖闘士たちは“楽しい夏休み”だけは手に入れられるようになったのだ。

「星矢が腹立たしく思う気持ちはわかるが、とにかく、これで当面の問題は解決したわけだ。 この夏、俺たちが行くのは海でも山でもいい。どこに行こうと、アテナの聖闘士たちは全員揃って──」
『終わりよければ全てよし』とばかりに、事を丸く収めようとした紫龍は、しかし、実に残念なことに、そうすることはできなかった。






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