それまで殊勝に深く反省している素振りを見せていた瞬が、突然 態度と口調を変えて、紫龍の話の腰を折る。
「えっ? 僕、海はいやだよ? 海に行くと、いっつも、周りの人たちが僕を変な目で見るんだもの」

そして、もちろん。
瞬が右と言えば左、白と言えば黒、山と言えば海──と、氷河は主張し始めるのだった。

「その顔で胸がなかったら、誰だって変だと思うだろう」
「失礼なこと言わないでよ! 氷河こそ、海に行ったりなんかしたら、浜に打ち上げられたクラゲみたいに溶けちゃうくせに」
「山は解放感に欠ける。俺は、狭っくるしいバンガローやテントの中で もそもそヤるより、星の綺麗な夜の砂浜で、おまえを泣かせてみたい」
「氷河って、そういうことしか考えてないの。最低! 山行こ、山」
「海だ。俺は、水着の上に着ていたTシャツを脱いだおまえを見て、周りの男共が驚愕するのを見てみたい」
「悪趣味はやめてよ。山」
「海」
「山だってば!」
「海だ」

「おまえら……」
自分たちの行きたいところが、数時間前と綺麗に入れ替わっていることを、氷河と瞬はいささかも奇異とは感じていないらしい。
本当に、氷河と瞬のそれは、喧嘩のための喧嘩らしかった。
ネタは、要するに、何でもいいのだ。
喧嘩のあとで、仲直りのキスさえできるのであれば。






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