氷河は、僕の監視人。
僕が閉じ込められている牢獄の看守なんだろう。
多分、彼は、彼の意思で、その役目を負ったのだと思う。
だけど。

氷河は──今は僕の側にいてくれるけど、でも、いつかは僕から離れていってしまうんじゃないだろうか。
自分がしたことも思い出せないほどの罪人のくせに、もう血の色の悪夢になど恐怖も感じなくなるほど心が麻痺しているくせに、僕は、そうなることが怖かった。

その夜、だから、僕は、氷河にそんなことを言ってしまったのだと思う。
氷河にしがみついて、
「僕の側にいて。僕だけのものでいて」
と。

それは、普通の恋人同士だって、軽い気持ちで口にする睦言のはずだった。
なのに、氷河は、僕のその言葉に、なぜだかひどく驚いたように目をみはった。

これまで僕は、そんな言葉を氷河に告げたことがなかっただろうか?
氷河の青い瞳を見詰めながら、僕はふと考えてみた。
なかった──ような気がする。

『僕だけの氷河でいて』
そんなことを氷河に言ったら、氷河はきっと、
『おまえは俺だけのものじゃないくせに』
そう言い返してくる。
それがわかっているのに、僕が氷河に言えるはずがない。
僕だけのものでいてくれ、なんて。

でも、今なら言える。
今は僕は氷河だけのものだもの。
氷河以外の誰にも会わない、会えない。
氷河以外の誰も視界に入れない。
だから、言える。
「僕だけのものでいて。何でもするから……!」

自分から肩を剥き出しにして、氷河にすがりついていった僕を、氷河がどう思ったのか、僕は知らない。
喜んでいるようには見えなかった。
でも、氷河がいつもより乱暴に、いつもより執拗に、僕を攻めてくることが、氷河の答えなのだと、僕は思った。

『言動は不愉快でも、求められるのは嬉しい』

氷河は、自分にとって特別な人にはどこまでものめり込むタイプの人間で、そして、独占欲がとても強いから。
だから、それが氷河の答えなのだろうと、僕は一人合点した。






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