なのに翌日、僕の・・氷河は、僕ひとりを牢獄に残して、どこかに行ってしまった。
賄いの──あの、恐ろしく生命力に満ち満ちた女性から、『夕方には戻る』という伝言だけは貰えたけど、でも、氷河が外出するなんて、これが初めてのことだったから、僕は、情けないくらいに慌て取り乱した。

僕は、ここがどこなのかも知らない。聞いてない。
城戸翁の残した屋敷だと、氷河は言ってたけど、でも、それはどこにあるの?
城戸邸からは──星矢たちのいるところからは、遠く離れた場所?

ううん、それはいい。
あの元気で明るい女性に尋ねようとも思わない。
そんなことはどうでもいいんだ。
僕がひとりで取り残されるのでさえなければ。

ひとりにされるのは嫌だ。
氷河は、外の世界に、僕以外の誰かがいるの?
僕以外の誰かと接して、話して、考えて、僕のことを忘れる時間があるの?
僕はこの狭い空間から外に出られないのに。
僕は、氷河をしか見ていないのに。

僕には氷河しかいない。だから、氷河も僕だけを見ているべきだ──。
僕は、僕自身も呆れるほど我儘な望みが自分の中にあることに驚いた。
驚いたけど、それを消し去ることができなかった。

閉塞された空間。
僕が誰かを傷付けたという確信。
そんなものが、僕から まともな判断力を奪ってしまっていたのかもしれない。
僕は、氷河を失うくらいなら、いっそ彼を殺して、僕の側から離れられないようにしてしまいたいとさえ思った。

こんなことを考える僕は、やはり気が狂っているんだろう。
でも、耐えられない。
ひとりでいることにも、ひとりにされる不安にも。
僕が氷河を殺して、その屍を独り占めして、何がいけないんだろう?

一人殺すのも二人殺すのも同じこと。
実際、そんなふうにして、僕はこれまで聖闘士という勤めを果たしてきたんだ。


その日、とき
氷河の帰りを待ちながら、やがてうとうとと寝入ってしまった僕は、僕が氷河に殺される夢を見た──本当は、僕が氷河を殺すはずだったのに。

夢の中で、剣で胸を突き刺されながら、僕は歓喜していた。
これで氷河は僕のものだと、きっと必ず永遠に、氷河は僕の呪縛から逃れられないだろうという確信を抱いて。






【next】