日本刀というのはとても綺麗なものだと、僕は思った。 初めて出向いた西の対の屋の一室で、僕はとても綺麗な 日本刀というのは、実際には、人を2、3人も切ればすぐに刃こぼれして使えなくなるものだそうだから、この屋敷に飾られている刀の類はおそらく、一度も自分の持つ力を試されたことのない刀たちなのだろう。 「瞬、何をしているんだっ!」 いつのまにか帰ってきていたらしい氷河に、その小刀を奪い取られるまで、僕は、初めて人の血を吸うことになる小さな刀を手にして、不思議にうっとりしていた。 「僕は……兄さんを殺したんでしょう? きっと、みんなを殺したんだ。だから、こんなふうに狂ってしまったんだ。僕は、氷河だって、そのうちに殺してしまう。そうなる前に消えてしまった方がいい」 突然現れた氷河に驚きつつ、でも、僕は存外に落ち着いた声で氷河に訴えた。 僕の声が落ち着いていたのは、多分それが、半分は本当だけど、半分は嘘だったから。 氷河は今は僕に同情して、僕の側にいてくれる。 でも、いつかは、狂人の側にいることが嫌になって、僕から離れていくに違いない。 僕が本当に怖れていたのは、僕が氷河を殺してしまうことではなく、氷河が僕を疎んじ忘れてしまうことだった。 「だから、氷河、それ ちょうだい」 僕はゆっくりと、あの幽霊みたいに白い手を、氷河の前に差し出した。 逢う魔が時が終わり、夜の 今日は、僕の手は赤くない。 そのことが何となく嬉しかった。 僕は今は正気なのだと思うことができたから。 |