僕の手に、僕の望んだものは戻ってこなかった。
氷河はそれを畳の上に投げ捨て、代わりに、僕を抱きしめてきた。
そして、氷河は僕に、信じ難い言葉を告げた。

「そうじゃない。おまえの兄を殺したのは、俺なんだ!」
──と。
「俺は殺し損なった。奴はもう動けるようになっていて──おまえは、俺が刺した一輝の姿を見て、それを自分のせいだと思って、自分が殺したように思い込んでしまっただけなんだ……!」

氷河は、それでも今まで、兄さんに謝罪することをせずにいたのだそうだった。
今日初めて、兄さんに詫びに行って、散々 馬鹿の阿呆のと罵倒され、そして許してもらってきた──と、氷河は言った。

僕は──僕は、氷河に何を言えばいいのかがわからなくて、ただ呆然としていた。
氷河を許すことも責めることもできなくて。






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