「あなたは誰」 ──というのが、意識を取り戻した瞬が最初に氷河に言った言葉だった。 『ここはどこ』と続いても、お約束通りすぎるそのセリフを笑っていられる事態ではない。 瞬は真顔だった。 「僕は……誰」 瞬は、律儀に、もう一つのお約束のフレーズを口にした。 それから、横になっていたベッドの上に上体を起こし、その周囲を囲んで立っていた彼の仲間たちに、心許なげな眼差しを向ける。 「瞬、どーしたんだよ、俺だよ、俺! 星矢!」 瞬の枕元に立っていた氷河を押しのけて、怒鳴るように叫んだのは星矢だった。 「せいや……?」 だが、その名とその名の持ち主を、瞬は思い出すことができなかったらしい。 「一時的に記憶が混乱しているのかもしれない。右の側頭部を強打したようだったから」 「顔で地面も掘れるアテナの聖闘士が、アタマ打ったくらいでおかしくなるはずないじゃねーか!」 命を懸けた闘いを共にしてきた仲間に他人を見るような目を向けられることが、星矢にはひどく苛立たしく感じられてならなかった。 「ほら、しっかりしろよ。おまえの名前は瞬。俺が蹴ったボールが砕いたコンクリートの塊りで頭を打ったんだよ!」 そして、その苛立たしさ以上に、星矢は責任を感じていたのである。 瞬が病院に運び込まれるような事態を招いたのは、当の星矢自身だったから。 |