瞬が必死の思いで氷河に頷いた次の時には、瞬は身に着けていたものをすべて剥ぎ取られ、小さな夜の灯かりの下で、氷河の前に白い裸身をさらけだしていた。
胸や腕に加えられていた愛撫が脚に移っていく。
手の平や指で撫でられるだけならまだしも、内腿や腰に唇を押し当てられて、瞬は羞恥に身をすくませた。
気が変になってしまいそうだったが、瞬には、氷河のすることを妨げることはできなかった。
身体を震わせ、熱くし、目を閉じて喘ぐこと以外、瞬にできることはない。

やがて氷河が瞬の細い足首を掴み、彼はそれを大きく左右に広げ折り曲げた。
熱を持ち熱くなっていた瞬の肌を、ひやりとした空気が撫でていく。
瞬は、今度は、その空気の冷たさに身体を震わせた。

「ひょうが……なに……? こんな……」
「知ってるんじゃなかったのか」
「知って――これが……あの……ああ……!」
氷河の指のいたずらに、瞬は、喘ぐことと息を止めることを同時にしたのである。

瞬が“知って”いるのは、姫でなくても氷河と契りを交すことができるらしいという、漠然とした知識だけだった。
その契りがどんなふうに為されるものなのかということまでは、郎党たちの噂話は瞬に教えてくれてはいなかった。
「嫌か」
「だって、こんなこと……ああ……っ」

氷河の愛撫の指が、瞬の身体の中に及ぶ。
その異様な感覚に耐え切れず、瞬は腰を浮かせて身悶えた。
すぐそこにある氷河の顔がぼやけて見えるのは、羞恥が呼び起こした涙のせいなのか、ゆらゆらと揺れる灯りの炎のせいなのか、それとも視覚そのものが氷河の愛撫のせいで狂い始めているのか――瞬にはわからなかった。

だというのに、目を閉じることができない。
灯りを消すように氷河に求めることも、瞬にはできなかった。
闇の中に氷河が消えていってしまったらと思う不安が、瞬にそれをさせてくれなかった。

瞬の身体の中を愛撫する氷河のは指先はますます大胆になっていく。
時折瞬の頬や首筋におりてくる氷河の唇から洩れる息も、少しずつ荒くなってきていた。

「おまえには俺がいるということを知っているくせに、図々しくおまえの許に忍んでこようとする男共を、俺がどれだけ追い払ったと思う。俺が懸命に耐えているのに、あの馬鹿共は――いや、あれは本当は こうしておまえを俺のものにするためだったんだ……」
瞬の耳許で囁かれる氷河の言葉と声には まるで抑揚がなかったが、それは異様な熱を帯びていた。
あられもない姿にされた瞬の身体の中に、その言葉と同じように熱を帯びたものが入ってくる。

「いたいっ」
氷河の所作は決して性急でも乱暴でもなかったのだが、瞬の身体の中に、それは、それこそ刀で身体を内側から切りつけられるような痛みを運んできた。
思わず瞬は声を――正直な声を――あげたのだが、氷河はそこから出ていこうとはしなかった。
それどころか氷河は、じわじわと瞬の身体の奥への侵略を続けながら、更に無理な要求を瞬に突きつけてきたのである。

「声をたてるな。乳母殿に気付かれる」
「あ……」
養父母や家人たちに対してなら、これは許婚同士の初めての交わりで済むが、瞬が男だということを知っている乳母は、彼女の育てた二人がこんな行為に及ぶことを想像だにしていないに違いない。
氷河の無理な要求を、瞬は、当然の主張と認めるしかなかった。

「こんな格好、乳母殿に見られたくないだろう?」
「あ……あ……ああっ!」
少しずつ瞬の身体の中に入り込んできた氷河は、瞬の身体の奥を確かめると、今度は抜き差しを繰り返すことで、瞬の中の反応を確かめ始めた。
声を出すなと瞬に囁きながら、氷河は、瞬が声をあげずにいられないようなことを幾度も幾度も繰り返すのである。

「あっ……あ、ああっ」
「静かに」
「そんな……そんな無理、ああ……っ!」
自分がその許婚に意地悪をされていることに気付かずに、それでも必死で声を飲み込もうとする瞬の様子を見て、氷河が苦笑のような笑みを浮かべていることに、瞬は気付いていなかった。
やがてその笑みが消えたことにも、瞬を攻めていた氷河が、逆に瞬の中に取り込まれ始めてたことにも、瞬は気付かなかった。

瞬はもう目を開けている必要はなくなっていた。
瞬の身体の内にも外にも氷河がいて、それを感じる。
固く目を閉じていた方がより明瞭にそれを感じる。
“感じているもの”が快さだと気付かないまま、瞬はただ喘ぎ、身体をのけぞらせ続けた。
氷河によって身体の中心に加えられる痛みはしびれに変わり、それは湖の水が陽光に温められるように瞬の全身に広がって、今では瞬の身体と心のすべてがその熱に支配されてしまっていた。
瞬は気が遠くなりかけていた――その幸福感にも似た熱のせいで。

喉だけでなく上半身だけでなく全身をのけぞらせていた瞬の耳に、氷河の短い呻きが届けられる。
それまで激しく動いていた氷河の身体が止まった瞬間に、瞬は初めて、それまで氷河に揺さぶられているだけだと思っていた自分自身もまた、氷河を翻弄していたらしいことを知った。






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