「氷河、したいの……?」
瞬が、瞬にしては直截的な言葉で尋ねてくる。
「僕は一人で眠るの、もういや。氷河が側にいてくれないと寂しくて苦しいの」
だが、そう言って少し恥ずかしそうに瞼を伏せるところは、いつもの瞬である。

その仕草よりも表情よりも、氷河は瞬の言葉が嬉しかった。
ほっと安堵の胸を撫でおろしてから、彼は心細そうな様子の瞬に告げた。
「それは俺も同じだ」
氷河の言葉を聞いた瞬が、花がほころぶような笑顔になる。

「よかった。じゃあ――」
そうして瞬は、両手を氷河の方に差しのべてきた。
「僕のために、これ飲んでくれる?」
瞬が手にしているものは、透き通ったガラスのコップ。
その中に入っているのは、濃茶色の液体――どうやら、醤油ほどには歴史と伝統を有していない、あの調味料らしかった。

「う……」
その底なし沼色のどろりとした液体を見た氷河の顔が 引きつる。
「いや、さすがにこれは……」
「飲んでくれないの?」
瞬はあくまで可愛らしく小首をかしげ、流し目のような上目使いで氷河に尋ねてくる。

「こんなものを飲んだら、身体を壊すじゃないか。俺はおまえとはいつも万全の体調で――」
「氷河、飲んでくれないんだね……」
「いや、だからだな!」

瞬の眉根が切なげに寄せられ、その瞳が悲しげな色に変わる。
慌てて瞬の落胆を打ち消そうとした氷河は、そうする前に、
「氷河なんか大っ嫌い!」
という言葉と共に、コップの中身を頭から浴びせかけられていた。






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