永遠を感じた夜

〜 あこさんに捧ぐ 〜







大きな闘いが一つ終わった。

「何とか、今回も生き延びることができたな」
城戸邸に帰った青銅聖闘士たち全員の気持ちを代弁するかのように、紫龍がしみじみと言う。
今度の闘いも、いつ誰が命を落としてもおかしくないほど過酷なものだった。むしろ、アテナの聖闘士が一人も欠けることなく生き延びることができたことの方が不思議だと 思ってしまえるほどに。
それでも――とにかく、今回もアテナの聖闘士たちは無事に生き延びたのだ。

「俺たち、悪運強いよなー」
ラウンジのソファに勢いよく身体を放り込み、星矢が言う。
そんな星矢を、紫龍は一応 たしなめた。
「俺たちが奉じているのは、一応、地上の平和と人類の安寧という大義を掲げている女神だ。悪運はないだろう」
「でもさー」

生き延びることに関するアテナの聖闘士たちのこのしぶとさを、“悪運”と言わずに何と言えばいいのだろう。
星矢は他に適当な語を見付けることができなかった。
それは紫龍も同様だったらしく、彼は軽い苦笑を浮かべ、仕方なさそうに顎をしゃくった。

そんな仲間たちのやりとりを笑いながら見ていた瞬が、ふと痛みのようなものを感じて顔をあげる。
瞬が『痛い』と感じたものは、瞬を無言で見詰めている氷河の視線だった。
それはいつも、『熱い』を通り越して『痛い』。
「今夜?」
僅かに首をかしげて、瞬が尋ねる。
「大丈夫か」
表情を全く変えずに、氷河は瞬を気遣う言葉を告げた。
その無表情以上に抑揚のない声は、それを形ばかりの気遣いに感じさせる。
もっとも瞬は、それで気を悪くした様子は見せなかったが。

「ちょっと腕に擦り傷ができた他は、いたって元気だよ」
『なにせ、顔で地面を削ってもかすり傷ひとつ残らない面の皮だしな』という星矢の茶々が、二人の間に割り込んできたが、氷河はそれを無視した。
「なら、おまえの部屋に行く」
「うん」

氷河が用件だけを瞬に告げ、瞬が頷く。
アテナの聖闘士たちについてまわる“悪運”を他にどんな言葉で言い表すことができるのか――そんなことは氷河には全くどうでもいいことだったらしく、彼の態度には、それまでの仲間たちのやりとりを聞いていた様子も皆無だった。
すがすがしさを感じるほど鮮やかに 話の腰を折ってくれた氷河に、星矢はわざとらしく大きな溜め息をついてみせたのである。

「おまえら、そういう打ち合わせを仲間の前ですんなよな」
「あ、ごめんなさい」
瞬は素直に謝罪してきたが、この二人が本当に自分たちが悪いことをしていると思ってるのかどうかは非常に怪しいと、星矢は思っていた。
無論 瞬は本心から謝っているのだろうが、それでも瞬はいつも 氷河の傍若無人を許してしまうのだ。
星矢も紫龍も、そんな二人には とうに慣れてしまっていたが。






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