『古代ギリシャの遺跡展』が日本に来るというので、瞬はそのチケットの入手を沙織に頼んだのだそうだった。 その数、10枚。 問題のイベントの主催はグラード財団の主観企業の一つだったので、沙織は簡単に瞬の希望を叶えてくれた。 ところで、そのイベントの展示品は、聖域からは散歩気分で行くことのできる国立考古学博物館から、はるばる極東の島国まで運ばれてきたものだった。 氷河も瞬も、もちろん星矢や紫龍も、既にギリシャで見たことのあるものである。 となれば瞬は、星矢や紫龍を『古代ギリシャの遺跡展』に誘うつもりはないに違いない――と、氷河は推察した。 つまり、毎回自分を同行させるつもりだったとしても、瞬はその『古代ギリシャの遺跡展』とやらに最低5回は足を運ぶつもりでいるのである。 氷河は、実際に瞬に誘いの言葉を告げられる前から、瞬の酔狂にうんざりしていた。 「こんなもの、ギリシャで飽きるほど見ただろう」 チケットと一緒に沙織が届けてくれたパンフレットを手に取りながら、氷河は不機嫌とまではいかないが、決して上機嫌でもない顔で、瞬に告げた。 瞬が――こちらは明確に楽しそうに、氷河に頷き返してくる。 「うん。いつもはアテネの考古学博物館に展示されてるんだよね。でも、今回の展示品の中に、何度見ても飽きない 僕のお気に入りがあるんだ。最近ギリシャに行ってなかったから、久し振りに会えるのが嬉しい」 麦畑の乾いた土の中から掘り出されたり、タコやヒトデの徘徊する海底から引き上げられたりした石像や青銅器のどこがいいのかと、正直 氷河は思ったのである。 それでも瞬を一人でそんなところに行かせるわけにはいかないと考えて、氷河は嫌々ながら自発的に瞬のお供を買って出たのだった。 が、氷河の推察は、どうやら外れていたらしい。 「興味がないのなら、無理して付き合わなくてもいいのに……」 瞬は“最低5回”そのイベントに足を運ぶつもりなど毛頭なく――瞬は一人で10回そのイベントに出掛けていくつもりでいたようだったのだ。 氷河が自発的にお供を買って出たことを、瞬はいかにも想定外のことと思っている素振りを見せた。 「有象無象の奴等が大勢集まってくる場所で、たまたま居合わせていた変質者がおまえに目をつけるかもしれないじゃないか」 「そんな心配はしなくても―― 一緒に来てくれるのは嬉しいけど……」 決して迷惑と思っているふうではないが、無条件に喜んでいるふうもなく――しいて言うなら、微妙な――非常に微妙な顔を、瞬は、『おまえと一緒に遺跡展行く』と告げた氷河に向けてきたのである。 |