神への供物

〜 しゅなーるさんに捧ぐ 〜







女神アテナの名を冠したアテナイの国は、オリュンポス十二神の中で最も英邁な知恵と戦いの女神に祝福された国だった。
ありとあらゆる技芸の守護神にして、粗暴な軍神アレスとは異なり知性と理性で争いを収める聡明で潔癖な女神。
アテナイの民は彼等の女神を敬い、誇りにし、それと同時に女神の好むような生き方を心掛けていた。
すなわち、名誉を重んじ、奢侈に走らず、愛欲に溺れず、理性によって己が人生を支配すること――。

そのように誇り高い国民の多い国であれば、王も国を治めやすい。
半ば伝説の英雄であるテセウスの血を引くとされるアテナイの現国王は、未だ若く血気に逸るきらいがないでもなかったのだが、女神の存在が大きすぎる国――つまりは女神アテナを奉じる神殿の神官たちの力が大きすぎる国――で、これまでのところは失政らしい失政もなく、とりあえずは賢王という評価を国の内外から受けていた。

王の本音としては、国政に関わるすべての決定に神殿の神官たちの認可が要る 現在の国政のあり方を疎ましく思い、政教分離を図りたいところだったのだが、事は容易に運ばない。
国の秩序が保たれているのは、神官たちの力ではないにせよ、彼等が奉じる女神の威光によるところ大であったし、その上、目の上のたんこぶである神殿には、王の大事な友人にして幼馴染みが神官見習いとして籍を置いていたのだ。






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