家族のスナップ写真を撮るのなら ただ自然にしていればいいのだろうが、瞬の望む広告塔になるには、結局技術が必要なのだと悟った氷河は、他の仲間たちに遅れること数ヶ月、本気でモデルという仕事を務めあげるための勉強を開始した。 世の人々にセクシーと評される男たちの出演している映画や各種ファッションショーの映像を見、ファッション誌を買いあさって、彼は、立ち居振る舞いや表情の作り方を研究した。 瞬以外の人間をここまで真剣に凝視するのは、氷河には初めてのことだった。 そんなことをしている自分を虚しいと思う余裕もないほど、氷河はその作業に没頭したのである。 その甲斐あって、彼が臨んだ二度目の撮影では、一輝からの『待った』はほとんど出なかった。 とはいえ、その撮影会で一輝からの『待った』『やり直し!』が皆無だったわけではない。 その場で一輝の怒声を浴びるのは、主に星矢の仕事になった。 商品ができ、モデルもものになり始めた頃、一輝は、このブランドが5人の青少年から成るユニットだということを前面に押し出して世にアピールすることを思いついたらしい。 彼は、同じデザインで色違いの5着の服を用意させると、この際 使えるものはすべて使えと言わんばかりに、今度はその5人のポートレート作りに取り組みだしたのだった。 「これじゃ、5人組のアイドルか何かと大して違わないじゃないか……」 既に人智を尽くして天命を待つ気分でいたところに新たな試練を課せられて、星矢は思い切り不満そうだった。 なにしろ一輝は、 「おまえはとにかく などという無理な注文を、平気で星矢に言ってくるのだ。 星矢の不満も当然のことだったろう。 しかし、一輝は、星矢の泣き言などをいちいち真面目に取り合う男ではない。 彼は、星矢の不満を一刀のもとに切り捨てた。 「全く違う」 「どこが違うんだよ」 「歌を歌わなくていい」 「――」 確かにそれは大いなる相違である。 その一言で納得させられた星矢は、懸命に自然な笑顔を作る矛盾に取り組むしかなかったのだった。 そんなふうに ブランド展開の準備が着々と進む中、瞬は毎日デザイン画を100枚200枚単位で描きあげていた。 無論、そのうち実際に縫製の段階まで進むのは わずか1、2着である。 瞬は、一輝以上に彼等のブランドが5人ユニットであることをアピールしたいらしく、沙織の勧めにも関わらず、縫製・カッテイングといった工程を機械化することを頑として拒んだ。 結局 アテナの聖闘士たちが作り出す衣料品は大量生産はせずに、高級男性既製服として売り出すことになったのである。 かくして、アテナの聖闘士5人がユニットを組んだデザイナーズブランドは、ついにデビューの運びとなったのである。 アイテム数を増やし、すべての用意が整ってから、瞬は、そのブランド名を『ジャンヌ・ダルク』と決めた。 |