城戸邸は、アテナの聖闘士たちにとって、既に他人の家ではなくなっていた。 懐かしの我が家に戻ってくると、やはり心身がリラックスする。 すっかり元気を取り戻した瞬も、最初から最後まで頑健そのものだった氷河も。 「僕、氷河を見直しちゃった。クリスマスケーキは、氷河の希望通り、氷印乳業のアイスクリームケーキにしようね」 「いや、俺は、おまえの好きなケーキで構わないぞ。俺には、ケーキよりおまえの方が大事だし」 「氷河……」 ここで『僕だってそうだよ』とは言わずに、「ありがとう、氷河!」と言ってしまう瞬の残酷さに、悲しいかな、氷河は既に慣れてしまっていた。 瞬の嬉しそうな顔を見て、氷河が薄い笑みを浮かべる。 瞬は、だが、氷河の笑みの薄さに不安を覚えたらしかった。 「改めて言うまでもない当たりまえのことだから言わずにいたけど、僕、ケーキより氷河の方がずっとずっと好きだよ。それはちゃんとわかってるよね?」 瞬のその言葉に、氷河が瞳を見開く。 改めて言われるまでもない当たりまえのことなのに、その事実を見失いかけていた自分に、氷河は、我知らず苦笑いを洩らした。 「僕は、氷河にはケーキより甘いんだから。でなかったら、兄さんのいるところで、あんなこと絶対に……」 頬を染め瞼を伏せた瞬が、少し悔しそうに呟く。 その様子の可愛らしさに、氷河は今更ながらに我が身の幸運を思い出すことをしたのである。 「大丈夫、薄々そうだろうとは思っていた」 「薄々?」 拗ねたような目をする瞬の機嫌をとるために、氷河は瞬の唇に唇を重ねた。 瞬の唇は、確かにいつもケーキより甘く感じられるものだった。 |