「氷河の奴、結構真面目に働いてるじゃないか。役割分担を間違えてるような気もするけど、焼きもちがいい方向に作用してるのかな」
その日の夕刻。
氷河の働き振りを見て感心したようにそう言ったのは、わざわざ氷河のボランティア活動を見物するために星の子学園にやってきた星矢だった。

氷河の周りで泣きわめき、あるいは怯え、あるいは顔を引きつらせて妙な奇声をあげている子供たちの姿を見て、よくそんなことが言えるものだと、紫龍は驚き入ってしまったのである。
星矢は子供たちの遊び相手にはなれても、保育士には全く向いていないと、彼はしみじみ思った。
「ま……あ、以前の氷河は、星の子学園に来ても何もせずに、瞬にまとわりつく子供たちを睨んでいるだけだったから、それに比べれば『働いている』と言えないこともないだろうが……」

「でも、子供たちは氷河さんをすごく恐がってて……。あれじゃ、子供たちの人格形成に悪影響を及ぼすことになるんじゃないかって、私たち心配してるの」
空しいフォローを入れた紫龍に、美穂が深刻な顔で彼女の懸念を訴えてくる。
氷河の周囲が子供たちの泣き声や奇声でにぎやかになっている事情を詳しく聞かされて、鷹揚と太平楽で売っている星矢も、さすがに事の重大性を認識するに至ったようだった。

「氷河の焼きもちは女子供にも見境なしか……」
星の子学園の憎たらしくも可愛い後輩たちのために、ここは早々に氷河のボランティア活動中止を沙織に進言すべきかと、星矢は真剣に考え始めることになったのである。
星矢のその呟きが気に入らなかったらしく、彼の幼馴染みは少し拗ねたように頬を膨らませた。
「星矢ちゃん、その『女子供』っていう言い方はやめてね。だいいち、氷河さんは、子供たちには盛大に焼きもちを焼いて追い払おうとするくせに、私たちが瞬さんの側にいても何も言わないし、何もしないんだから」

美穂はそれが不思議でならなかったのだが、星矢にはそれは不思議でも何でもなかった。
「そりゃ、美穂ちゃんたちは、瞬に抱きついたりしないだろ」
「恐くて、とてもそんなことできないわ」
この場合、彼女が『恐い』と感じているのは、もちろん瞬ではなく氷河の方である。
目的格が省略されていても、美穂の恐怖の対象が誰であるのかは、星矢には至極容易かつ即座にわかった。

「氷河は、瞬に接触するものに焼きもち焼くみたいなんだ」
「気をつけるわ」
自分自身に言い聞かせるように、美穂が真剣そのものの表情で深く頷く。
氷河のボランティア活動を恐れているのは、どう考えても子供たちだけではなかった。






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