(俺はヘンタイにも犯罪者にもなりたくないー !! )
と、氷河が声にならない叫びを再び叫ぶことになったのは、その夜のこと。
瞬がいつものように氷河のベッドに潜り込もうとしてきた時だった。
そのこと自体にも氷河は慌てたのだが、その瞬がいつものように裸でいることに、氷河はパニックを起こしかけてしまったのである。

「パジャマを着ろ!」
氷河は すぐさま瞬の裸体を毛布で包み込んで大声をあげたのだが、そうしてしまってから、彼は、これでは裸の瞬を逆にベッドに招き入れたことになるではないかと、自分の所業に舌を噛んだ。
瞬が、にこにこ笑いながら(16歳の)瞬の定位置にその身体を滑り込ませる。
「どうして? いつもは僕がパジャマ着てても、すぐに脱がしちゃうくせに」

恐ろしいことに、瞬はこれまで二人が過ごしてきた夜のことを憶えていた。
せめて記憶も6歳の頃のそれになっていてくれたなら まだ対処の方法もあったのにと、氷河は、今更願っても詮無いことを心底から強く願ったのである。
こんなアンバランスな生き物は、宇宙怪獣の侵略から地球を守るためという名目で高層ビルを倒しまくるウル○ラマンより はるかに危険な存在だと、氷河は思った。

「いや、だから――」
「僕、パジャマ着てると眠れないの。氷河もそうでしょ」
「……」
その通りだった。
だから氷河は困っていたのである。
先にベッドに入っていた氷河は、いつもの通りに裸だったのだ。

「氷河は、僕を壊すようなことしないよね」
「……」
にっこり笑ってそう念を押すのは、6歳の瞬の感覚か、はたまた 16歳の瞬の記憶なのか。

氷河の言葉と声は――その思考すら――、絶対零度の世界に閉じ込められ 動きを封じられた人間のそれのように、そろそろ活動ができなくなりかけていた。
そんな氷河に比して、6歳の瞬は、その非力と無邪気を盾にして、いつもより はるかに屈託がなく、奔放かつ無防備である。
「おやすみなさい」
と、就寝の挨拶を告げて、ぴたりと氷河に寄り添った瞬の肌の感触は、氷河がこれまでに味わい尽くした瞬の肌の感触と全く同じものだった。

いつもなら、
「ここで『おやすみ』とは何ごとだーっ!」
と叫んで瞬に覆いかぶさっていくところなのだが、今夜だけはそれだけはできない。
6歳の瞬がどれほど色っぽくても、その色香に負けて本当にそんな行為に及んだなら、瞬の身体は比喩ではなく実際に壊れてしまうだろう。
それがわかっているから――氷河は欲望を抑えることはできそうだった。
それは可能だったのだが。

問題は、6歳の瞬の肌の感触に触発されて、氷河の肉体に いつもと同じ変化の兆候が現われ始めたことだった。
できない・・・・相手とわかっているのに、なぜ自分の身体は反応するのか。
6歳の瞬の色香というより、自身の身体の不可解に苦悩しながら、氷河はまんじりともせずに 長い夜を耐え続けたのである。






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