「――ということだそうよ、瞬」
沙織は、どう考えても、すべてを見通して、この茶番劇の演出を一手に引き受けている。
氷河が、彼の至った結論を大声で断言し終えた時、まるでタイミングを見計らっていたかのように彼女がラウンジに招き入れたのは、“氷河が好きな”瞬だった。
「氷河……」
つまり、元の16歳の姿に戻った瞬だった。
「瞬……」

瞬が6歳の子供の姿になっていたのは、たった1日だけのことだった。
それでも、16歳の姿の瞬に再会した氷河は、ひどく懐かしい気持ちに囚われることになったのである。
その瞬が、
「ごめんね」
と小さな声で謝罪して、氷河の胸に その身を傾けてくる。

途端に氷河の心臓は、大きく跳ね上がることになった。
氷河が たった今立ち会ったのは、“氷河の瞬”がふっと気弱になるあの瞬間で――つまり、今 彼の胸の中にいる瞬は、“色っぽさ”を極めていたのだ。
一度大きく跳ね上がった氷河の心臓が、そのまま雪崩を打つように大きく速く波立ち始める。
氷河は、こんな瞬をベッド以外の場所で見るのは、これが初めてのことだった。

「夕べは欲を必死に我慢してたんだろ。愛情とやらを確かめてきたらどーだ」
星矢にしては気の利いたアドバイスである。
アテナや仲間たちへの謝罪も礼もそこそこに、氷河は実に迅速に星矢のアドバイスに従った。
彼だけの“色っぽい”恋人を 他の誰にも見せずに済む場所に、氷河は大急ぎで彼の瞬を隠すことにしたのである。






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