頼んだわけでもないのにスイカの買出しに付き合ってくれ、聖闘士には軽い荷物にすぎないスイカを、当たり前のことのように瞬には持たせず自分で持ってくれた氷河に、『自分は決して彼に嫌われているわけではないのだ』と思い直しかけていただけに、氷河の憎しみさえ感じさせるような視線は、瞬を落胆させた。 「僕、やっぱり、氷河に嫌われてるような気がする……」 瞬がしょんぼりと肩を落とす様を見た星矢は、すぐに無責任にもとれる明るさで、 「そんなことねーって」 と、仲間に断言した。 もちろん、それは彼の十八番である“根拠のない直感”だった。 当然、そんなことで瞬の沈んだ表情が一変するわけがない。 俯かせた顔を上げようともしない瞬に困って、星矢は口と眉を歪めることになってしまったのである。 「プトレマイオス型天球儀ねー……。俺、人間として原始的なのかな。どうしても 俺が動いてるんじゃなく、天の方が動いてるんだとしか思えない」 この事態を招いた原因が自分の食欲にあることは、星矢も一応自覚していた。 一向に浮上する気配を見せてくれない仲間を見やり、星矢は溜め息混じりに呟いた。 「だって、実際にそうじゃん。俺がメシ食ってる間に、勝手に太陽は移動してるし、俺が寝てる間に勝手に星の位置は変わってる。動いてるのは、絶対に俺じゃなくて空の方だって!」 「ははは。おまえにはそうだろうな」 至極尤もな星矢の意見に、紫龍が愉快そうな笑い声をあげる。 星矢は、自分が馬鹿にされたと思ったのか、この場で一人だけ楽しそうにしている紫龍に噛みついていった。 「『おまえには』ってのはどういう意味だよ。氷河なんか、もっと身勝手じゃん。世界は自分の思い通りに動くべきだと思ってるから、思い通りに動かないと、ああしていちいち腹を立てるんだろ!」 「それはどうかな」 紫龍は意味ありげな口振りで、星矢の主張をやわらかく否定した。 それから、瞬の方に向き直る。 「瞬」 すっかり落ち込んでしまっている瞬を力づけるように、紫龍は真顔で告げた。 「氷河はおまえを嫌っているのではないと思うぞ。氷河には、おまえがいつも人のために働いていることが、他人の犠牲になっているというか、利用されているように見えるんだろう。だから氷河は、おまえに人の世話ばかりしてないで、もっと自分のことを考えてほしいと思っているんだ」 「犠牲だなんて……。たかがゴミの分別くらいのことで大袈裟だよ」 「ゴミの分別は“たかが”かもしれないが、おまえは戦いの場でもそれをしかねないからな」 「それは、でも、僕だけじゃなく、みんなそうでしょう。氷河だって、星矢だって、紫龍だって、アテナの聖闘士たちはみんな、この世界に住む人たちのために――」 瞬の反駁を、紫龍は、やはり穏やかな表情と口調で遮った。 「氷河が心配しているのは、そういう大局的なことではなく、言ってみればもっと局地的な、その時々、個々人のバトルのことだろうな。なにしろ、おまえには氷河を救うために命をかけた前科がある」 「あれは戦いなんかじゃなかったよ」 「俺は、あれこそが十二宮戦で最も壮烈な戦いだったと思うがな。そして、今のままだと、おまえはまた同じことをしかねない。氷河の懸念はもっともなことだと俺は思う」 「そんな……」 それを戦いと言うのなら、それこそが瞬の戦い方である。 その戦い方を否定されてしまったら、瞬はそもそも戦うこと自体ができなくなってしまう。 もし氷河が本当にそんなことを心配して それ以前に――氷河がそんな心配をしているということが、瞬には信じ難いものだったのだが。 |