瞬が俺のベッドにやってくるのは、戦いの後だけだった。 “敵”と戦い、敵を傷付け倒したあと、その夜にだけ、瞬は俺の部屋にやってくる。 必ず、俺の許に来る。 人を傷付けたことに傷付いて、傷付いたその心を癒すために。 瞬は、俺に身体を傷付けられることが自分の罪を贖うことになるのだと思っている節があった。 幼く無力な子供ではなく、一人の聖闘士になった瞬。 今の瞬は、一人が恐いというより、他人を傷付けてしまう自分、自分がその力を持っている事実それ自体を恐れているんだろう。 だから、他人を傷付けることで傷付いた心を、俺に癒してもらおうとする。 俺に身体を傷付けられることで。 瞬は、俺に癒しを――あれを“癒し”と言っていいのかどうかには疑問も残るが――求めているんだ。 “癒し”でなければ、自分の犯した罪に対する罰を。 人を傷付けた自分を傷付けてもらい、それで罪を償った錯覚を覚え――だが、おそらく、それが真の贖罪にならないことを、瞬は気付いている。 俺とのセックスは、束の間の、かりそめの、目隠しにすぎないということを、瞬はちゃんと理解している。 それでも、瞬は、俺と身体を交え俺に加えられる痛みに酔うことで、自分の犯した罪を たまたま身体がセックス向きなんじゃなく、瞬はそれを心から求めているんだ。 だから、俺は言ってやる。 「余計なことは考えず、俺だけを見ていろ」と。 「目を閉じて、俺だけを感じていればいい」と。 そう言ってもらえることが、他を見なくていいという許しを得られることが、瞬は嬉しいらしい。 だから瞬は、やわらかで温かい眠りを俺に与えてもらう代償として、俺の欲望を受けとめているのではなく――俺との交合を積極的に求めるんだ。 俺に愛撫されている時より、残酷に貫かれている時の方が、瞬は嬉しそうだった。 否、明白に喜んでいた。 その時 瞬は必ず泣いているんだが、それは歓喜の涙でもあり、人を傷付ける力を身に備えてしまった自分を嘆く涙でもある。 時に快楽が高じて気を失う瞬は、俺の目にひどく痛々しく映った。 それでも――そんな理由からでも、俺は瞬が俺を求めてくれることが嬉しかった。 瞬は、子供の頃と同じように、 瞬は、俺に恋をしているわけではない。 瞬は、俺とのセックスが好きなわけではない。 瞬は俺を好きなわけでもなく、俺という男を求める気持ちを抑えきることができずに俺の許に来るわけでもない。 瞬は俺を必要としていてくれるのだからそれでもいい――と自分を納得させていた俺が、そんな瞬に苛立ちを覚えるようになったのは なぜだったろう。 瞬が俺を愛してくれているのではなくても、俺は瞬を愛し恋していたから――なんだろうか。 闇に視界の覆われることのない昼間、星矢たちと明るい表情で楽しそうに過ごしている瞬を見てしまったからだったかもしれない。 たまに帰ってくる兄に、放蕩息子の帰還を喜ぶ母親のように優しい眼差しを向ける瞬に気付いてしまったからだったかもしれない。 戦いのあった日の夜にしか、瞬は俺を求めてくれない。 万一この世界に真の平和が訪れて戦いがなくなったら俺はどうなってしまうのかと、俺は地上の平和と安寧を守るために存在する聖闘士にあるまじき恐れをさえ抱くようになっていた。 苛立ちと不安が高じて、俺は、戦いの予兆も戦いの傷跡もない時に 無理矢理瞬を犯したりもした。 瞬はそんな俺を大人しく受け入れてくれた。 それはそうだろう。 俺たち聖闘士を含めたすべての人類は、『この世界から戦いが消え去ることはない』という皮肉なほど美しい幻想を抱いている。 俺は、瞬にとって、大切なたった一人の裁きの神だ。 瞬の罪を罰することで、瞬の心を安らげる癒しの神だ。 瞬は 今はまだ。 だが、永遠にではない――。 |