戦いを、“敵”の存在を、俺は望むようになっていた。
アテナを脅かす敵。
地上の平和と安寧を乱す敵。
人類の存続を妨げようとする敵。
どんな敵でもいい。
戦いが続く限り、瞬は俺を求めてくれる。
そう考えて。

そんなある日。
なにやら不穏な動きがあるという情報を得たというアテナの命令で、俺は、瞬と共に俺の故国に近い北方の国に出向くことになった。
不安そうな目をしている瞬に付き合って神妙なふうを装ってはいたが、その実俺は、新たな戦いが始まるかもしれないという期待に胸を弾ませていた。
結局俺たちの遠出は無駄足に終わり、俺と瞬は戦いの種を見付けることなく日本に帰ることになってしまったんだが。
地上の平和と安寧を求める聖闘士であるはずの俺は、調査を終えて帰国の途についた時、はなはだしい落胆を覚えていた。
おまけに、出向いた先の国にあった白い光景が昔の非力だった頃の俺を思い出させて、俺の心を沈ませていた。

俺は戦いを求めているんだ。
瞬が俺にすがらずにはいられなくなるような、瞬が傷付き癒しと裁きを求めずにはいられなくなるような戦いを。
だが、それは手に入らず、俺が手に入れることができたのは、このまま平和の時が続くのではないかという大きな不安だけだった。
そのはずだったのに――北方への遠出から帰還した その夜、瞬は俺の部屋にやってきた。

「なぜ……」
俺は声にして訊いてしまっていたと思う。
瞬は戦っていない。
瞬は誰も傷付けていない。
だから瞬も傷付いていない。
そのはずなのに――なぜだ?

だが、理由はどうでもいい。
俺は瞬が欲しかった。
俺を一人にしないでほしかった。
俺が瞬を抱きしめると――ほとんどしがみつくように瞬に抱きついていくと、瞬はその腕を俺の背にまわし、
「泣かないで」
と小さく囁いた。
「僕はずっと氷河の側にいるから、氷河は寂しがったり悲しんだりしなくていいんだよ」
そう、瞬は言った。






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