「貴さんは、僕のこと、女の子だと思ってて、それで、僕、氷河と一緒のことが多かったから、そんな誤解をしてるんだと思うんだけど――-ぼ……僕、どうしたらいいかわからなくて……」 結局 貴氏の誤解を解くことができないまま、瞬は城戸邸に逃げ帰った。 否、瞬が逃げ込んだ先は、仲間たちと暮らす城戸邸ではなく、氷河の懐の中だったのかもしれない。 明日から貴氏にどう接すればいいのかを瞬に教えてくれるのは、氷河しかいなかったから。 氷河は、瞬の報告を聞いても、少しも慌てた様子を見せなかった。 半分泣いてしまっているような瞬に、氷河は 抑揚のない声で、 「おまえが何かする必要はない。その男は、俺に来いと言っているんだ」 と言ってきた。 「え……?」 「そのタカシサンとやらは、おまえにあしらえる男ではなさそうだ。明日は二人で その男のところに行こう。完璧にオトモダチの振りをしてやる」 「あ……」 一人で貴氏の前に立たずに済むのなら、それは瞬の心を安んじさせる提案のはずだった。 だが、『完璧にオトモダチの振りをしてやる』という氷河の言葉は、瞬の胸の中にある鉛の球を更に重いものにしただけだった。 |