星矢に電話をして切られるのは、もう4度目。 電話に出られない場所にいるのなら留守電にしているはずなのに、星矢はなぜ電話に出てくれないのか。 おかげで瞬は、探している本があるわけでもないのに、既に1時間以上、書店の中を歩き回っていた。 大型の書店ならともかく、ご町内の個人経営の小さな書店である。 これ以上ここにいたら、店主に不審人物と疑われるのではないかと、瞬はひひやひやしていた。 瞬の他にもう一人 長居をしている客がいるのに、店主は その客ではなく瞬ばかりを気にしているように見える。 自意識過剰にすぎないのであればいいのだがと、瞬は 泣きたい気持ちで思ったのだった。 そこに、星矢から電話が入る。 瞬は、噛みつくような勢いで、自分の携帯電話に叫んでいた。 「星矢! 星矢なのっ !? 」 親友の名を繰り返してから、その声が大きすぎたことに気付き、瞬は慌てて書棚の陰に移動して、身体を小さく縮こまらせた。 「あ、瞬か? わりー、わりー。何度も電話くれてただろ。持たされて半年以上経つのに、俺、携帯電話の使い方って 未だに よくわかんなくてさ。どのボタン押せば電話に出られるのか見当もつかなくて、関係ない別のボタン押しまくって、何度も切っちまったんだよ。ちょうど紫龍が家の前を通ったから、電話のかけ方 教えてもらって、こうして――」 「これから、星矢の家に行ってもいい !? 変な人につけられてるの。自分ちに帰って自宅を知られたくないんだよ」 「変な人って、また若い男か?」 「うん」 「いつも通り、まいちまえばいいじゃん。おまえ、ストーカーから逃げるの、慣れてるだろ」 「まけないんだよ」 「おまえが? そりゃ、よっぽど熟練のストーカーだな。俺んち来てもいいけどさ、それって意味あんのか? おまえんち、俺んちの隣りの隣り――」 「すぐ行く!」 店主がまた瞬の方に一瞥をくれる。 これ以上、ここにはいられない。 脱兎の勢いで、瞬は書店を飛び出た。 書店のレジの横に立っていたストーカー(とおぼしき男)も、瞬と一緒に書店を出る。 既に恐怖は頂点に達していて、瞬は速足というより、ほとんど走っていた。 ストーカー(とおぼしき男)は普通に歩いてついてくるだけなのに、なぜか二人の間の距離は縮まらない。 脚の長さが違うにしても、それはあまりに おかしな話で、瞬には どうしても彼が尋常の人間であるとは思えなかった。 |