「おまえ、よく、あんな頭のいい子をものにできたな」 前触れもなくアイザックが氷河に そう告げたのは、彼が氷河と瞬の関係を容認する気になったからではなかった――まだ。 こうなってしまったからには仕方がないと諦めたからでもないし、ましてや、氷河の成し遂げた快挙を称賛するためでもない―― 一応は。 彼は本当に、その事実を不思議に思っただけだったのだ。 氷河は、だが、それを容認の言葉、称賛の言葉と解したらしく、手放しで喜んでいるというふうではなかったが、少し気を安んじたような表情を浮かべた。 「瞬のことなら――瞬は優しいんだ。『おまえなしでは生きていけない』と言って迫ったら、ほだされてくれた」 「ほだされて? まさか。あの子は一時の感情に流されるような子ではないだろう」 “家族”が自分の恋した人の価値を正しく認識してくれることは嬉しい。 そういう笑みを、氷河が浮かべる。 しかし、氷河は すぐにその笑みを消し去った。 どうやら氷河は――氷河も――アイザックと同じ疑念を抱いていたらしい。 「そうなんだ。瞬は尋常でなく優しいんだが、無思慮な人間ではない。だから、瞬がなぜ俺を受け入れてくれたのか、本当のところは俺にもわからない」 「……」 真顔で そう言う氷河は、本当に自身の幸運の訳がわかっていないようだった。 だが、アイザックには、だからこそ その訳がわかったのである。 おそらく氷河は、いかなる偽りも粉飾もなく、真摯に率直に本気で瞬に訴えたのだ。 『おまえなしでは生きていけない』と。 それが紛う方なき事実で、事実以外の何物でもなかったから、“優しい瞬”は心を動かされないわけにはいかなかったのだろう。 “一時の感情に流されることのない子”も ほだされるかもしれない。 アンドロメダ座の聖闘士は、むしろ“頭のいい子”だから、氷河を突き放すことができなかったのかもしれない。 氷河の強く まっすぐな思いを拒み、彼の一途な魂を傷付け悲しませることに どんな益があるのかと冷静に考えて。 無思慮な人間でないからこそ、瞬は氷河を受け入れずにはいられなかったのだ。 「結局、おまえが最強なのか」 「なに?」 「いや。アンドロメダは全く気に入らないが、あの子は おまえにはもったいないほどの相手だと言ったんだ」 「そうだろう! そうなんだ!」 積極的なものではないにしろ、瞬の価値を認め、瞬との仲を容認するアイザックの言葉を聞いて、氷河が嬉しそうに瞳を輝かせる。 この瞳を曇らせるわけにはいかない――。 アイザックは、多少の諦観と共に そう思ったのだった。 |