転校3日目以降、俺が入手した情報は、本当に枝葉末節に類することばかりだったろう。
あの、細くて華奢な瞬が、男らしい弟を希望している兄の期待に応えるべく、良移心當流と堤宝山流の流れを汲む柔術(柔道や合気道、空手の源流に当たる格闘技だそうだ)を習っていて、瞬の年齢での最高段位を保持していること。
氷河と瞬が知り合った きっかけも、街で瞬の凄まじい目の力に 一目でいかれた氷河が ふらふらと近寄っていって 瞬に投げ伏せられてしまった事件だったこと。
その後、自分の誤解に気付いて、瞬は慌てて氷河を介抱したんだそうだが、柔術なる技を知らなかったとはいえ、情けない限りだ。
瞬は、中学生の時に、ナイフを持った二人組のコンビニ強盗を あっさり なぎ倒し、警視庁から感謝状をもらったこともあるらしい。

文武両道を旨とする兄の方針で、瞬は学業にも熱心。
秋の全国高校生模試では2科目で全国1位の点をとったとかで、まだ1年生であるにも かかわらず全国総合ベスト20位に入ったそうだ(ちなみに、この順位は瞬の兄より、はるかに上だ)。

起床時、別に汚れてないからと言い張って 顔を洗うことも面倒がっていた氷河が 身だしなみに気を遣うようになったのも、瞬のため。
あの勉強嫌いだった氷河が 猛勉強をし、さすがに全国レベルにはまだまだだが、この学校内では学年ベスト10に食い込んでいるのも、ただただ瞬に釣り合う男になるため。

同じ目的を持つ同志として、俺は一輝とつるんで氷河に嫌がらせをしてやったんだが、氷河は そもそも 言葉で嫌味や皮肉を言われたくらいのことで傷付く繊細さなんか持ち合わせていなかったし、氷河相手では実力行使も ほとんど効き目がなかった。

瞬は、本当に欠点のない子だった。
瞬の基本項目である『可愛くて優しい』に、『強い』『聡明』『賢明』『正義漢』『氷河に良い影響を与えている』等々、次から次に長所美点ばかりが追加されていく。
当初は、氷河の強引さに負けただけなんだと思っていたのに、実は瞬自身も本当に氷河が好きらしく(どこがいいんだ、あんな阿呆の)、冗談抜きで“氷河を好きなったことだけが、瞬の欠点”状態。
欠点のない完璧な恋人。
欠点のない完璧な瞬。
優しい瞬に 優しくされている氷河を見ているうちに、俺は自分のしていることが ひどく空しいことに思えてきて、氷河をシベリアに連れ帰るどころか、転入10日目頃から 俺は軽い鬱状態に陥り始めていた。






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