青い瞳の…〜(誰も知らない)プライバシーデー編〜






『暑さ寒さも彼岸まで』の諺通り、秋の彼岸が過ぎると、急に朝夕が涼しくなる。
それまではまだ夏の名残りをとどめているようだった空や風が、急に秋の深まりを主張し始めるのだ。


秋。

瞬は、毎年、その季節を、この時期になると各洋菓子店に一斉に出現する栗やさつま芋のケーキで実感することにしていた。
誰が決めたのかは知らないが、9月29日は『洋菓子の日』。
その日を明日に控え、瞬は朝から浮かれていたのである。
明日は氷河と一緒に、各店ご自慢の秋のケーキを食べに行くのだと、瞬は意欲に燃えていたのだ。


「まず、お店ごとにマロン・タルトの食べ比べをしなきゃいけないと思うんだ。それから、さつま芋のモンブランと、あと、りんごとさつま芋のパイを食べて、お土産が定番のスイートポテト。これも結構、お店によって味が違うんだよね。きっと、氷河にも食べられるのがあると思うよ。最近のケーキ屋さんは、どこも甘さを抑えてるから」

ケーキ店カタログの最新号のページを繰りながら、瞬は、実に嬉しそうに氷河に告げた。
瞬が嬉しそうにしていれば、当然氷河も嬉しいわけで、彼もまた無表情に機嫌が良い。

そーゆーわけで、その日9月28日、氷河と瞬は、ケーキ店カタログが広げられたラウンジのセンターテーブルをはさんで、朝っぱらから実にマトモに、普通の、ほのぼのでラブラブで甘々で超ハッピーな恋人同士をしていたのである。
氷河が無表情なせいで傍目には到底そうは見えないのだが、その場には氷河と瞬の二人しかいなかったのだから、他人の目にどう映るかなど、この際は問題ではなかった。

とにかく、二人は平和に幸せな恋人同士をしていたのである。


でなければ、ここに紫龍が登場する意味がない。







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