――彼が新幹線を使ったのでないことだけは確かである。
費やされた時間が短すぎるというのではない。
同じ新幹線の同じ車輌の隣りあったシートに、氷河が一輝と座っていられるはずがないのだ。

同じ理由で、氷河には車を使うこともできなかっただろう。
高速バスも、バイクも、飛行機も、ヘリコプターも、自転車も、リニアモーターカーも、ちんちん電車も、三輪車も、とにかく氷河が“乗り物”という手段を用いなかったのだけは確かである。

彼が、どういう方法を用いたのかは謎だった。
おそらく、それは永遠に解けることのない謎だろう。

ともかく、10月27日テディベアの日が終わる15分前に、グラスファイバーのロープで縛り上げたズタボロ状態の一輝を引きずって、氷河が城戸邸に帰りついたことだけは、神も認める事実だった。

まるで、風速50メートルの暴風の中で、5、6時間も台風情報を現場中継していたお天気リポーターのように、氷河自身、髪も衣服もズタボロで、顔も腕も傷だらけだった。


「氷河……!!」

突然何の説明もなく飛び出ていって、深夜になっても帰ってこない氷河を心配していた瞬は、最初、傷だらけの氷河の姿を見て、彼が敵に襲われたのかと思ったのである。
氷河の怪我や傷が、数の割にどれも軽傷だということを見てとって、彼が敵襲に会ったのではないことはすぐにわかったが。

「ど…どこに行ってたの、氷河! 急に飛び出していくから心配したじゃない!」

氷河は、瞬の詰問には答えず、死んでも放すまいとばかりに決死の思いで掴んでいたロープを引いて、豊橋で捕獲した獲物を瞬の前に投げ出した。

そして、
「こいつにクマを……」
と言うなり、壁に背をもたせかけたまま、ずりずりとその場に崩れ落ちてしまったのである。

「に…兄さん…? 氷河…っっ !! 」

悲鳴に似た瞬の声が遠くから聞こえてきたが、『ともかくなんとか間に合った』という安堵感が、氷河から意識を奪っていった。








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