『僕、二人を軽蔑します!』

『僕、二人を軽蔑します!』

『僕、二人を軽蔑します!』

『僕、二人を軽蔑します!』

『僕、二人を軽蔑します!』



一輝と氷河の頭の中では、永遠に続くかのようなリフレインが、いまだに響いていた。

一輝と氷河はショックのあまり、いがみ合うことすら忘れて――かと言って、慰め労わり合うわけでもないのだが――ダイニングルームの壁際に置かれた椅子に、同じような格好、同じような表情で脱力しきって座っていた。

そこに、今日という日がどういう日なのかを知った瞬が戻ってくる。



「氷河」

瞬のその声は、それまで魂の抜け殻のようだった氷河の起動スイッチを押した。
がばっと顔をあげた氷河の眼前に、にこやかな瞬の笑顔がある。

「知ってる? 今日は『いい兄さんの日』なんだって。兄さんと一緒に買い物にいかない? 二人で兄さんに手袋をプレゼントしようよ」

瞬はそう言ってから、笑顔の輝度を100カンデラほど上昇させた。

「僕の兄さんは、氷河にとっても、お兄さんみたいなものでしょう?」

「…………」

それは違う――と、氷河は胸中で即座に瞬の言葉を否定した。
瞬の兄は、氷河にとってはただの邪魔者だった。
しかし、ここで自分の真意を告げて、瞬を傷付けるようなことはしたくない。
取り戻しかけているのかもしれない瞬の優しさを、自ら失う愚は犯したくない。
そして、瞬の望みは叶えたい。

激烈なる葛藤の末、氷河の中で、一輝を疎んじる気持ちに、瞬への愛が勝利した。



氷河が無言で頷くのを確認した瞬が、今度は一輝に向き直る。



「兄さん、僕たちからのプレゼント受け取ってくれるでしょう? 必要ないなんて言わないでくださいね?」

そんなものは必要ない――と、一輝は胸中で即座に瞬の願いを拒絶した。
瞬はともかく、氷河からのプレゼントなど、一輝は欲しいとも思わなかった。
しかし、ここで、最愛の弟の優しい心を拒むわけにはいかない。
取り戻しかけているのかもしれない瞬の敬愛を、自ら拒む愚を犯したくない。
そして、瞬の笑顔を消したくもない。

熾烈な闘争の末、一輝の中で、氷河への憎悪に、瞬の幸せを望む心が勝利した。







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