氷河は、彼の部屋の中に入らずに、ドアの前で瞬を待っていた。
氷河の青い瞳に出会い、一瞬どぎまぎした瞬のために、彼がドアを開けてくれる。
先程までの気負いはどこへやら、瞬はおどおどしながら、招かれた部屋の中に足を踏み入れた。
自分がひどく図々しいことをしているような不安に襲われる。
しかし、その不安やためらいは、氷河に触れてほしいという欲求の前に、跡形もなく吹き飛んだ。

「あの、続き……僕、苦しくて、眠れなくて、続き、を……」
「眠れなくて? なぜだ」
「あの……身体が熱くて、僕、変になって、だから、僕……」
そんなことを報告している間も惜しい。
なぜ氷河は早く自分を抱きしめてくれないのかと、瞬は焦れた。

「身体が熱くて──それで?」
そんなことを尋ねながら、氷河がその腕を瞬の方に伸ばしてくる。
瞬は、待ち焦がれていた氷河の腕の中に、自分から身を投げた。

氷河はもう、瞬の胸には手を伸ばしてこなかった。
触れる前から、瞬のそこがそう・・なっていることを、彼は知っていた。
「自分で触ってみたりしたのか? ここに」
昨夜瞬が自分で触れるのを躊躇した場所を、氷河の手が掠めて過ぎる。

「ああ……んっ」
それだけで瞬は気が遠くなりかけていた。

「触ったのか?」
そんな瞬に、氷河が重ねて尋ねてくる。

瞬は喘ぐようにして、首を横に振った。
「あ……あの、苦しかったから……でも、すぐに、氷河じゃないと触っちゃいけないような気がして──氷河がそうしてもいいって言ってないのに、僕が勝手に触っちゃいけないのかもしれないって思って、だから、すぐやめたの」

「……ああ、それは賢明だな。治療途中で、素人が変な手を出すと、症状が悪化するかもしれない」
「あ、やっぱり、いけないんだよね。うん、いけないことみたいな気がしたんだ。氷河じゃなきゃ……いけないみたいな……」
自分の判断は正しかったのだと安堵しながら、瞬は氷河の胸にしがみついていった。

「そう、俺だけだ」
瞬を抱きとめた氷河が、その耳朶を掠るように舌で舐める。
そんなふうにされるくらいのことで、なぜこんなにも身体が熱くなるのかと怪訝に思う余裕も、瞬には与えられなかった。

氷河の手が、瞬の脚と脚の間に忍び込んでくる。
びくりと大きく震えた瞬の身体を抱きしめたまま、氷河は瞬の耳許で低く囁いた。
「見せてみろ」
「え」
「おまえのここ」
「そんなこと……」
「自分のおかしいところを治したいんだろう? じかに触れた方が早く治るぞ」 
「そんなこと、だって……」

氷河に触れられるのは心地良い。
それは瞬にももうわかっていた。
だが瞬は、それを氷河に見られてしまうのは恥ずかしかった──恥ずかしいことのような気がした。





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