「なら、見ない」
瞬がためらう様を見ていた氷河が、あっさりと引きさがる。
駄々をこねる患者に、氷河は機嫌を損ねてしまったのかと、瞬は怯えた。
氷河にこのまま放り出されてしまうことには耐えられない。
そんなことになったら、明日の朝を迎える前に発狂してしまいかねない自分を、瞬は知っていた。

「氷河、あの……」
おずおずと、氷河の名を口にしてみる。
幸い氷河は、そのまま瞬を放り出すことは考えていなかったらしい。
氷河は、瞬の身体を引き寄せると、瞬を抱きしめたままの格好で、昨夜のソファに乱暴に腰をおろした。
布張りの一人掛けの肘掛け椅子のアームレスト部分が、瞬の脚を不自然に折り曲げさせる。

「座りにくいだろう。脚を片方こっちにあげろ」
瞬がその言葉に従うのを待たずに、氷河が瞬の右の脚を掴み、ソファのアームに乗せてしまう。
瞬は、半分をソファに、半分を氷河に跨っているような体勢をとらされた。
僅かに腰が浮いていて、瞬の腰と氷河の腰の間に微妙な隙間が生じている。

氷河は、そこに手を伸ばしてきた。
瞬のそれに触れるためではなく、瞬のそれを空気に触れさせるために。

「あっ……!」
無論、ただそこにあるだけの空気は、氷河の吐息の熱さほどの刺激も持ってはいない。
瞬が声をあげたのは、手を差し込むのに必要な分だけ邪魔な布を取り去って、その隙間から忍び込んできた氷河の指のせいだった。

「こうすれば見ずに触れるだろう?」
氷河の指が、じかに瞬のそれに触れる。
「きゃ……!」
女の子のような声をあげそうになって、瞬は慌てて唇を引き結んだ。

氷河が、瞬の顔を自分の肩に載せるようにして、瞬の上半身を引き寄せる。
「こうして、おまえを抱いていれば、俺に見えるのは、おまえの髪とうなじだけだ」
そう言いながら瞬の着衣の中に忍び込んできた氷河の手は、瞬のそれをまさぐり、絡み続けていた。

「ん……っ!」
自分の身体が、氷河の胸と手の中で変わっていくのがわかる。
昨夜までにもそういうことなかったわけではない。
だが、瞬は、その変化を氷河に知られたくなかった。
氷河の手から逃げようとして、腰をあげる。

途端に、
「俺から離れると、見えるぞ」
という氷河の声が瞬の耳に吹き込まれ、その声は、瞬の動きを止めてしまった。
氷河の言う通りだった。

「ああ……!」
進むことも退くこともできないことを知らされた瞬が、抵抗を諦め、脱力したように、氷河の胸にしなだれかかる。
瞬は、氷河に触れられることより、変わってしまっているそこを、彼に見られることの方が恐ろしく、恥ずかしかった。

そんな瞬に勝ち誇るように、瞬に触れている氷河の手がいたずらを繰り返す。
「あっ……あ、あ……ああ……っ!」
氷河の頬の横で、瞬は、抑えようのない声を漏らし続けることしかできなかった。

もう逃げることは諦めたのに、自然に腰が浮きかけ、そのたびに、氷河のもう一方の手が瞬の身体を元の位置に引き戻す。
そのたびに、瞬は、掠れた悲鳴をあげた。





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