無論、瞬は、自身の身体の変化には気付いてた。
だが、氷河が『それは良くないことだ』と言わないのだから、その変化は普通のことなのだろうと、瞬は思っていた。
“普通”でないことなのであれば、氷河がそう言ってくれるはずなのだ。

自分の心と身体がどこかに向かっていることが、今では瞬にもわかっていた。
その目的地がわかりかけた気がした時、氷河がふいに瞬から離れる。
「ああ……っ!」

「このままイかせてやってもいいんだが……」
氷河の声音には、どこか意地の悪い響きが潜んでいた。

「氷河、どうして? いや、やめないで」
瞬の懇願を蔑むように、氷河が顎をしゃくる。
「俺に迷惑をかけたくないから、おまえは自分を治そうと思ったんだろう?」
「あ……?」

当初の目的はそうだった──否、今でもそうである。
忘れかけてはいたが、確かにそれはそうだった。
だから瞬は、愛撫を中断されたことに身悶え喘ぎながら、氷河に頷いた。

「なら、こっちもオトナになれ」
言うなり、氷河の指が、瞬の中に入ってくる。

「……!」
瞬は、一瞬、大きく瞳を見開いた。
その異様な感覚に、瞬が最初に感じたのは、純粋な恐怖心、だった。
自分の中に自分でないものが入り込んでくる恐怖、である。
「やだっ!」
氷河から逃げようとして腰を浮かす。
それは、氷河の指に、更に深い場所への侵入を許すことになった。

瞬の中で蠢くそれは、身体の表層を撫でられているのとは全く異なる感覚を、瞬にもたらした。
身体の中を、徐々に何ものかに侵食されていくような、それは不思議な感覚だった。
いくら何でもこれは尋常のことではないだろうと思えるその感覚は、だが、瞬の身体の奥に、異様な歓喜を形作り始めていた。

氷河の指が、瞬の中の壁を擦る。
「……っ!」
声にならない悲鳴を、瞬はあげた。

「こっちは嫌か? 気持ちよくならないか?」
「あ……」
氷河が、嫌に冷静な口調で尋ねてくる。
その声の冷たささえ、今の瞬には、瞬の身体を刺激する何か・・でしかなかった。

「やだやだ、ああん……!」
まるで赤ん坊のような声でむずかり、瞬は扇情的に腰を蠢かした。

「おまえ、こっちの方がオトナだぞ」
意外の感を隠し切れずに、まるで独り言のように、氷河が言う。
「あ……はぁ、ああ……ああ……!」
そして、氷河は、瞬の中に侵入させていた指を変えた。
彼の中指は、瞬の更に奥にまで刺激の触手を伸ばし、瞬を翻弄した。

「氷河、助けて、氷河、助けて、僕、ああ……僕……」
耐え切れずに──もう耐えられないと思うのに、もっと強い何かを求めて──瞬は、より深くそれをくわえ込むために、自分から氷河に身体を押しつけていった。

「こっちの方がいいのか」
「いい……いい……あ……ん、や……いや、でも……あぁ……!」
自分が何を口走っているのか、瞬にはまるでわかっていなかった。
だが、何か言葉を発していないと、それ・・が指だけだという物足りなさを、発散することができない。
瞬の身体は、それ以上の何かを欲しがって疼き、のたうっていた。

「指だけじゃ足りないのか」
氷河の声音には、蔑みの色が戻ってきていた。
その言葉を言い終わらないうちに、氷河が瞬の身体の奥深くまで埋め込んでいたものを、乱暴に引き抜く。

「ああんっ!」
どうして自分がそんなに意地の悪いことをされるのか、瞬にはわからなかった。
わからないまま、もどかしげに腰を蠢かすことで、自分が苦しんでいることを、氷河に訴える。

「氷河、お願い……!」
何をしてほしいのかはわかっていなかった。
だが、瞬には何かが必要だった。

「お願い、氷河……氷河、お願い……ちょうだい、それ、ちょうだい」
それ・・を氷河は知っているはずだという確信が、瞬を氷河に向かわせ、彼に懇願させていた。





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