瞬を自室のベッドに放ったままで、身仕舞いを整え、氷河はラウンジにおりていった。

「朝から、機嫌が悪いな」
「別に」

そこで機嫌の悪い氷河を迎えたのは紫龍で、彼はどういうわけか、氷河以上に機嫌が悪そうだった。
サーバーから注いだコーヒーの入ったカップを手にして、ソファに腰をおろした氷河に、紫龍が親切顔で言う。
「今朝、おまえの部屋の前を通ったら、ドアが開いていたんで閉めてやったぞ」

ぴくりとこめかみを引きつらせて、氷河が顔をあげる。
次に紫龍が氷河に贈ったプレゼントは、彼が彼の仲間たちには滅多に見せない憤怒の表情と罵声だった。
「氷河、おまえ、瞬に何をしているんだっ!」

「…………」
問われても、答えられるわけがない。
氷河は無言で、彼の仲間を睨みつけた。
紫龍の激昂の訳はわかる。当然のことだとも思う。
だが、彼には、氷河の無念はわからないだろう。

「いいか、瞬は……!」
「わかってる! 瞬は発育不良! 俺の気持ちなんか全然わからないお子様で、俺に何をされてるのかもわかってない!」
氷河は、自らの怒声で、紫龍の非難を遮った。

ぎりぎりと音がしそうなほどに強く奥歯を噛みしめている氷河を見て、紫龍が、毒気を抜かれたように、両の肩から力を抜く。

「──おまえ、それで不機嫌なのか」
「…………」
「自業自得じゃないか」
「…………」

そんなことはわかっている。
わかっているからこそ、氷河は腹立たしかった。
何の非もない瞬にあんな無体をしてしまったことを、今ならちゃんと反省もできるし、後悔もできる。
だが、今更そんな殊勝な気持ちを抱いたところで、事態は好転しない。
瞬は相変わらず発育不良のままで、自分がしてしまったことは取り返しがつかない──のだ。

それでも、氷河は後悔していた。





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