「氷河、あの……」 長い沈黙に耐えかねて、瞬が氷河の名を呼んだ時には、実に幸いなことに、氷河はその嬉しい結論に辿り着いていた。 仲間の険しい顔に怯えている瞬のために、表情を和らげる。 氷河の瞳の色を確かめて、瞬は、ほっと小さく息を漏らした。 「紫龍が言ってたろう、発育不良は俺の方だと」 「氷河が?」 瞬にしてみれば脈絡なく発せられたその言葉を理解しかねて、瞬は首をかしげた。 氷河は、瞬より大きい。 おそらく生粋の日本人でないせいもあるのだろうが、そもそも骨格からして、氷河は瞬とは違っていた。 幼い頃はそんなに違うとは思っていなかったのだが、今では二人の差異は明白だった。 瞬の当惑に微苦笑して、氷河が言葉を続ける。 「俺はおまえが好きなんだ」 「え?」 「好きだったんだ、もう、ずっとガキの頃から。日本でおまえに再会できた時は、小躍りしたいほど嬉しかった。おまえは綺麗になってた。俺は──」 自身の発育不良の程を噛みしめるように、氷河は、一度言葉を途切らせた。 大きく一つ深呼吸をする。 「俺は、これでも随分、おまえにアプローチしていたつもりなんだ。他の奴等には無愛想でも、おまえにだけは優しくしていたつもりだし、いつも目で追っていた。だが、おまえは一向に気付く気配がなくて──だから、あの日、おまえを発育不良だと毒づいた。身体のことじゃなく、そういう面で感情的に子供のままだと、そう意味で、俺はあの時、紫龍たちに当り散らしていたんだ」 「あの……」 「ちゃんと言葉で告げずにわかってもらおうとした。わかるのが当然だと思っていた。こんなに俺が好きなんだから、おまえが俺の気持ちに気付くのは当然だと──勝手な話だ」 「あ……でも、僕は──」 瞬は──意識していなかっただけで、本当は、そのことに気付いていた──感じていた。 何よりも、瞬自身が、氷河と同じ思いを、氷河に対して抱いていたから。 だからこそ瞬は、言葉にするまでもなく言葉にもできないその大前提を全く意識せず、氷河につり合わないほど発育不良な自分自身を恐れて、“成長”を望んだのである。 「あの……じゃあ、僕の身体は、おかしくないの」 「──多少……俺に都合のいい方向におかしいな。まさかあんなに──あ、いや。おかしくはない」 まさかここで、『しょっぱなから、そっちでイくのは普通じゃない』などと、本当のことを言うわけにはいかない。 氷河は、その点に関しては、一生沈黙を守ることを決めた。 「俺の気も知らずに、俺に相談に来たおまえに、勝手にひとりで苛立って、それで、あんなことを思いついた。いくら思っても気付いてもらえない俺の気持ちを、少しはわかれと言いたくて──俺こそが、ちゃんと口に出して言えばよかったのにな」 氷河の表情は、以前の通りに──もしかしたら、以前より──ずっと優しい。 瞬は、それが嬉しかった。 「あの、氷河が僕にしてくれたことは何」 「……本当は、俺がおまえに好きだと告げて、おまえも俺を好きでいてくれたら──それを確かめてからすべきことだ」 「僕、変じゃないの? あの……僕が、氷河を好きでいるのなら、僕があんなふうになるのは変なことじゃないの?」 氷河が頷くと、心配事が消えた瞬の瞳と頬に、やっと笑顔が戻ってきた。 「よかった」 瞬の微笑の意味がわからないほど、氷河は発育不良ではない。 瞬を抱き寄せ、抱きしめて、言葉には出さずに、氷河は瞬に謝罪した。 |