自分がどうやって、あの薔薇の香りに包まれた石段を登ったのかを、瞬は憶えていなかった。 氷河の目に触れることだけを恐れ、氷河に会わずに自室のベッドに辿り着けたことを、瞬は神に感謝さえした。 蹂躙された身体が痛かった。 疼いてもいた。 死に物狂いで逆らおうと思えば逆らえたはずなのに、そうしなかった自分が理解できず、そうできなかった理由を考えると、自分がおぞましいほど下劣な動物にすぎないという結論に至りそうになる。 それを当然の反応だと思ってしまうには、瞬は潔癖な子供すぎたし、そういうものだと思おうとしても、瞬はそんな自分を認められなかった。 人間はそんなものではない――と、瞬は思っていたかったのである。 混乱し、結論の出ない堂々巡りを繰り返し、最後に瞬は唇を噛み締めた。 「あの人が……氷河に見えたの……」 ぽつりと呟いてから、それが言い訳としか聞こえないことに気付いて、瞬は涙を零した。 |