アベルは、あれ以来、一度も瞬に触れることはなかった。

彼が瞬を無理に従わせようと思えば、彼の手の中にはまだ全人類という人質がいたのだから、瞬は彼に逆らうことはできなかっただろう。
だが、アベルはそうしなかった。
できなかったのかもしれない。

彼はただ、無言で瞬を見詰めているだけだった。

瞬は、そんな彼の視線に出会うたび、その眼差しに気付くたび、彼のその瞳に既視感を覚えたのである。

どこかで見たことのある瞳──。
それは、以前の──何も言わずに瞬を見詰めていた頃の氷河のそれに酷似していた。

(違う……。氷河は、僕のために、僕を見詰めているだけだった。この人は、自分のために──自分が僕の拒絶に不愉快になりたくないから、こうしてるだけなんだ……!)

瞬は、無理にそう思おうとして──そう思ってしまうことができないまま、新月の夜を迎えたのである。








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