いずれにしても、形勢は逆転した。 今は、苦しんでいるのはアベルの方で、その手が瞬の腕に食い込んでくる。 おそらく、結界を解けば、楽になれるのだ。 しかし、彼はそうしようとはしない。 瞬の腕を──彼は離そうとはしなかった。 だが――。 彼の結界は少しずつ、その威力を失いつつあった。 「瞬、そいつから離れられるか!」 「あ……う…うん」 今、瞬を縛ってるのはアベルの手だけだった。 小宇宙を駆使できるようになった瞬には、他のどんな力も無効である。 「なら、そいつから、離れろ。今なら結界も緩い。離れたら、おまえ自身の小宇宙で、すぐに自分を防御しろ」 「氷河……」 アベルが、瞬の横で苦しんでいた。 彼の小宇宙は、既に瞬のものよりも弱まっていて、おそらく、この状態がもう数分も続いたなら、彼の命──人間と同じものでできている、その身体の命──は確実に失われるだろう。 「瞬、早く!」 「あ……」 アベルの手が瞬の腕を掴んでいる。 その手の力も弱くなり、それは今の瞬になら簡単に振りほどけるはずのものだった。 なのに。 「瞬、早くしろっ!」 「だ……駄目っ!」 瞬は、叫んでいたのである。 「死なせちゃ駄目! そんなの、何の解決にもならない!」 「瞬っ!」 アベルの最後の小宇宙を消し去るために、氷河は全ての力を彼に注いでいた。 「かわいそうな人なんだよ! 寂しかっただけなの!」 「だから何をしてもいいということにはならない!」 「でも、殺すのは駄目!」 「瞬っ !! 」 なぜ、瞬は、この愚かな神を助けようとするのか。 氷河は苛立った。 「そいつは、俺からおまえを奪った!」 「おまえにひどいことをした」 「おまえを傷付けたんだっ !! 」 「氷河……! でも、彼はかわいそうな人なの! かわいそうな人なんだよっ!」 瞬の悲痛な訴え。 「瞬……」 氷河は、それに逆らえたためしがなかった。 氷河は、そして、ほんの少し、自らの小宇宙を緩めた。 途端に──アベルが意図したわけではなかったのかもしれないが──それまで、ぎりぎりのところで保たれていた二人の小宇宙の均衡が破れ、太陽神の小宇宙が氷河に襲いかかる。 (しまった……!) 氷河は、自分の甘さに臍を噛んだのだが、アベルの小宇宙は氷河の身体にまでは到達しなかった。 氷河とアベルの小宇宙以外の小宇宙が、アベルの最後の力を粉砕する。 そこに現れたのは、氷河の仲間たちだった。 「お約束だろ」 「麗しい友情という奴だ」 「俺は好きで来たんじゃないぞ」 星矢は笑いながら、紫龍は穏やかに、一輝は苦虫を噛み潰したような顔で、登場の挨拶をする。 「さっさと、その男を貴様の十字架にでも封じてしまえ」 氷河をこれほどまでに変えてしまう無体を弟に加えたらしい男を睨みつけ、一輝は氷河に偉そうに指図した。 |