氷河が、太陽神の最期の望みを叶えてやろうとした時、だった。
瞬が、死にかけた神の脇に跪き、彼の身体に小宇宙を送り込み始めたのは。 

「あなたの身体は、人間と同じなんでしょう? 生きようと思えば生きられるんでしょう? 生きていきませんか、僕たちと」

瞬の両手に包まれた左手の指を、アベルはもどかしげに動かした。
離したくない気持ちと、振りほどかなければならないのだという思いが、その動きを意味のないものにする。

「瞬……。それは残酷というものだ。誇れるものを失くした上、私のものでないおまえを見ていることなど、私には到底耐えられない。消されてしまった方がはるかにましだ」

そう言われてしまっても、しかし、瞬は、アベルの手を離さなかった。

「神は──生きていたいと思う限り生きていられるが、その意志がなければ再生はない。また、ひとりに戻るだけのこと。永遠に、ひとりに──そして蘇らないだけのことだ」

「アベル……でも……」

瞬の瞳が切なげな色を浮かべるのに、アベルはひどく幸福そうな表情を作った。
恋ではなくても、瞬が寄せてくる感情は、彼の心に地良かった。


氷河が、瞬の肩に手を置いて、瞬の所為を止めさせようとする。
「……その方が、こいつのためだ。俺だって、俺のものでないおまえを見ていることになど、絶対に耐えられない。耐えられたのは……おまえの心がこいつの許にはないと思うことができたからだ。でなかったら、俺はとっくに、こいつに無謀な闘いを挑んで、殺されていただろう。その方が苦しくない」

「氷河。でも、生きてたら……生きてたら、他にもっと愛せる人にだって巡り合えるかもしれないじゃない!」

「おまえを愛した後では無理だ」
「……氷河」



神殿の外では、無数の星が――星が悲しそうにきらめいていた。








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